次の朝、下駄箱で恐る恐る藤堂君に挨拶をしてみる。

「おはよう」

「橘さん。おはよう」

 そう言ってこちらを見て振り返ったのは、笑顔の藤堂君。

 でも、眼帯もしてるし十字架のネックレスも、ドクロの指輪も、それから胸元には龍をかたどったブローチも。
 一日で中二病が治るはずないか。
 そう考えてため息をつき、私は藤堂君を見上げた。

 歩道橋から落下したあの日、記憶は曖昧だけど、藤堂君が私を助けてくれたことは覚えてる。
 私はあの日から、藤堂君をずっと目で追ってるんだよ。
 だから私は彼のことなら何でも知ってるって思ってた。

 でも、眼帯を筆頭に中二病アイテムをたっぷりつけた藤堂君を見て思う。
 なにも知らなかったんだ。
 私がそんなことを考えていると、藤堂君はポツリと呟くように言った。

「もうすぐ俺は、あいつらと戦わなきゃいけない」

「そっか」

 私はなんとなく話を合わせて、それから小さくため息をつく。

「なんとしてもドラゴンを乗りこなさないと。これはそのためのブローチなんだ」

 藤堂君はそう言って胸のブローチを指さす。
 なんだか精密につくられた銀製のブローチは、安価なものではない気がした。

 私が胸元を見つめていることに気づいた藤堂君は、思い出したかのようにポケットからスマホを取り出す。
 そして、おもむろに操作を始めて顔をゆがめる。

「くそっ! あの村も魔王軍に焼かれたか」

 魔法とかドラゴンのいる世界の情報がスマホで得られるっておかしくない?
 そう言いたい気持ちを抑えて、私は廊下をすたすたと歩き出す。

 藤堂君、私と付き合ってからおかしくなったよね。
 もしかして実は遠まわしにフラれてる?
 そんなことを考えて、一気に落ち込んだ。

 すると、肩をとんとん叩かれる。
 振り返ると、藤堂君が申し訳なさそうな顔で立っていた。

「ごめん。暗い話ばっかりで」

「ううん。大丈夫」

 私がそう答えると、藤堂君はとびきりの笑顔でこう言う。

「今日は、一緒に帰ろうか」

 その瞬間、私は何もかもどうでも良くなった。

 中二病がなんだ! 告白をOKされたら勝ちなんだよ! 私は藤堂君の彼女なんだ!