「僕は、代々、魔法使いの家系じゃないんだ。突然変異っていうか。だから祖父母も両親も魔法はつかえないんだ」

 藤堂君はそこまで言うと少し寂しそうに笑う。

 きれいな顔立ちに見とれてしまうけれど、正直、今はそんな場合じゃない。
 私は小さくため息をついて、すっかり枯れてしまった紫陽花に視線を向ける。

 梅雨明けしたからという理由で中庭で二人でお昼ご飯。付き合って初めての二人きりでのお昼ご飯なのに……。

「つまりね、僕は異端児なんだ」

 藤堂君はそう言うと細く白い右手で顔半分を覆う。
 なんだよそのポーズ。中指にドクロの指輪してるし。
 つい昨日までこんな人じゃなかったのに。
 穏やかで頭が良くてやさしい。そういう人だった。

 それとも中二病なのを必死で隠してたのかな?
 でも、本人が良かれと思ってやっているのなら隠す必要ないか。

「あ、そういえば魔法陣は効果ある?」

 急に話をふられて、私はハッと我に返る。

「ああ、うん。あるんじゃないかな」

 一応、話は合わせておこう。
 私は制服のベストのポケットに手を触れた。この中に、例の魔法陣が入っている。

 一時限目の休み時間に藤堂君はわざわざ私を呼び出して、この紙切れをくれた。ラブレター?! とか思ってドキドキしながら中を見て、時が止まった。

 そこに描かれてあったのは、魔法陣だった。アニメとか漫画とかでよく見るあれだ。
 それでも藤堂君の手書きということで宝物決定だけど。

「この辺は結界が張ってあるけど、奴らはどうやって侵入してくるからわからないから気をつけないとね」

「藤堂君の魔法でばーんってやっつけちゃえばいいじゃないの?」

 半ば投げやりな気分でそう聞いてみると、藤堂君は焼きそばパンを持った右手をぷるぷると震わせ始めた。
 それを見て、うちの学校の演劇部って結構、演技うまいんだなあと思った。素人ってこんなもんよね。

 そんな素人・藤堂君は「俺は、ある事情で強力な魔法は使えないんだ」と重々しい口調で語り出した。
 お昼休みの時間をいっぱいにつかって語られた藤堂君の壮絶な過去とやら。
 要約すればこうだ。

『強力な魔法を使ったら自分の故郷の村が火の海になった。そのトラウマでつかえない』と。

 あーあ。こりゃあかなり重症だなあ。
 イチゴミルクを飲みながら「なんなの」と小さく呟いて空を見上げれば、ぴかりと金色の光が瞬いた。