「中二の時、さっきみたいな稲妻が歩道橋に落ちて私はそれに巻き込まれて、それで藤堂君に助けられたんだ」

「稲妻じゃないよ」

 藤堂君はそう言って、それから真面目な顔で続ける。

「奴らが攻撃をしてきているんだよ」

「それも、中二病作戦?」

 私の問いに藤堂君は悲しそうに笑う。

「そうだといいのに」

 直後に校内アナウンスが流れて、全校生徒は体育館に集められ、それから校長先生のやけに短い話を聞いてから下校をすることになった。

 先生たちはさっきの稲妻のことには一切、触れず、その代わり、全校生徒にヘルメットを配ってそれをかぶって下校するようにと何度も言った。

 空は良い天気で、ぴかぴかと光るのは星なのか、それとも……。
 私はヘルメットの顎紐をしめなおして、とぼとぼと歩いた。

 ここ数年で地球が大きく、しかも悪いほうに変化していることはなんとなくわかっている。みんな気づいている。
 だけど、こうしてお昼で下校してヘルメットまであると絵空事ではないなと思う。
 ただ、それよりも私は藤堂君の言葉がショックだ。

「橘さん!」

 その声に振り返ると、藤堂君がこちらに走ってくるのが見えた。

「なに?」

「いや、言いたいことがあって」

 そう言った彼はカラコンをしていなかった。

「からかってたわけじゃないんだ。中二病のふりをしていたのには、理由がある」

「やっぱりふりだったんだね」

 藤堂君は視線を足元に向け、それから小さな声で言う。

「印象に、残りたくて」

「え?!」

「橘さんに告白された日、うれしかった。だけど、その日の夜に出撃が決まって……」

「出撃ってなに?」

「パイロットだから」

 そう言ってふんわりと笑う藤堂君はどこからどう見えてもパイロットには見えない。
 これも中二病作戦なの?

「特別パイロットの生存率は三十パーセントだから」

 藤堂君はそこまで言うと唇を噛んで、それから続ける。

「だから、橘さんの記憶に残りたくて、中二病のふりしたんだ。ずっと忘れられないように」

「今はもう中二病のふりじゃないの?」

「いいんだ。これも、中二病だと思ってて」

 藤堂君はそう言って少しだけ笑うと、ぴしっと姿勢を正して敬礼をする。

「僕は必ず大事な人たちのいる、橘さんのいるこの地球を救います!」

 ざあっと生ぬるい風が吹く。
 ねえ、藤堂君。その敬礼、どのくらい練習したの?
 すごく様になっててカッコいいよ。
 私がその気持ちを伝えようとすると、彼がポケットからスマホを取り出す。

「そろそろ行くね。明後日が出撃だから今日と明日は色々と忙しいんだ。無理言って学校に来たからさ」

「それも中二病の設定なの?」

 私の問いに藤堂君が黙って首を左右に振る。

「帰ってきたらさ、またオムライス、作って。今度は完食するから!」

 藤堂君がそこまで言ったところで、黒塗りの車が歩道に横づけされる。
 彼はそれに乗って行ってしまった。