昇降口で見慣れた後ろ姿を見つける。
男の子わりに華奢な背中と長い手足。間違いない藤堂君だ。
朝から会えたことに私はうれしくなって、彼を呼び止めようとしてやめる。
ブレザーのポケットから手鏡を取り出して前髪を整えた。
それからとびきりの笑顔とともに彼の背中に声をかける。
「藤堂君。おはよう!」
振り返って「おはよう。橘さん」とこちらを見る藤堂君の顔に一瞬だけ見とれた。
いつもなら一時間でも二時間でも見ていられるその整った顔立ちには、今日はおかしなものがある。
「どうしたの? ものもらい?」
そう尋ねる私に、藤堂君がハッとしたような表情をして右手で眼帯を押さえた。
なんだか一連のアクションが芝居がかっているような。まあ気のせいか。
藤堂君は俯いて、そして少しだけ黙りこんだ。
それから消え入りそうな声で言う。
「魔力を抑えているんだ」
「まりょく?」
私が首を傾げると、藤堂君は異様にキョロキョロと辺り気にしてから、「ここは人が多いな」と呟いた。
そして私の腕をつかんだ。
やだもー藤堂君って大胆なんだから!
そんなことを考える前向きな私と、『藤堂君、いつもと様子が違わない?』と心配する私が葛藤する。
三階の階段の踊り場までくると、やけに藤堂君と距離が近いことにドキドキしながら彼の言葉を待つ。
そして、藤堂君は大真面目な顔でこう言ってのけた。
「俺、ずっと黙ってたんだけど魔法がつかえるんだ」
男の子わりに華奢な背中と長い手足。間違いない藤堂君だ。
朝から会えたことに私はうれしくなって、彼を呼び止めようとしてやめる。
ブレザーのポケットから手鏡を取り出して前髪を整えた。
それからとびきりの笑顔とともに彼の背中に声をかける。
「藤堂君。おはよう!」
振り返って「おはよう。橘さん」とこちらを見る藤堂君の顔に一瞬だけ見とれた。
いつもなら一時間でも二時間でも見ていられるその整った顔立ちには、今日はおかしなものがある。
「どうしたの? ものもらい?」
そう尋ねる私に、藤堂君がハッとしたような表情をして右手で眼帯を押さえた。
なんだか一連のアクションが芝居がかっているような。まあ気のせいか。
藤堂君は俯いて、そして少しだけ黙りこんだ。
それから消え入りそうな声で言う。
「魔力を抑えているんだ」
「まりょく?」
私が首を傾げると、藤堂君は異様にキョロキョロと辺り気にしてから、「ここは人が多いな」と呟いた。
そして私の腕をつかんだ。
やだもー藤堂君って大胆なんだから!
そんなことを考える前向きな私と、『藤堂君、いつもと様子が違わない?』と心配する私が葛藤する。
三階の階段の踊り場までくると、やけに藤堂君と距離が近いことにドキドキしながら彼の言葉を待つ。
そして、藤堂君は大真面目な顔でこう言ってのけた。
「俺、ずっと黙ってたんだけど魔法がつかえるんだ」