「有馬友稀」

「はい」

僕は担任にフルネームを呼ばれて返事をしながら起立した。


 僕の学年の生徒が名前を呼ばれて全員、起立するまでこのままだ。


 ――あー……めんどくさいなぁ。


 この間に本でも読みたいし、受験の間控えていたゲームもしたいのに。


 ――暇だ。


 ぼーっと立っていて、ふと思い出した。


 去年の僕は、一人で三送会の企画に追われていた。

それというのも、僕の所属する文芸部は、卒業する学年の一つ下の後輩が三送会を企画する。

しかし僕の学年は人数が多いわりに僕以外全員幽霊部員だったのだ。


 さすがに何もしないのは先輩に申し訳ない気がした。

「先輩、手伝いますよ!」

そんな時、一人の後輩が名乗り出てくれた。


 相澤栞(あいざわしおり)


 彼女は交友関係が広いタイプで僕とは正反対。

正直意見が合わないこともあった。

生徒会の経験もあるからか企画運営はお手の物だった。


 かといって、彼女一人で決める事は無かった。

「私が考えるより、先輩が考えた方が卒業する先輩達が喜びますよ!」

嫌そうなそぶりも無く、めんどくさがることも無く。

彼女はそう言って笑った。

誰かを笑顔にするために彼女は笑っていたように思う。


 去年の卒業式で先輩が、俺は泣かないのかな、なんて言っていた。


 部長をつとめていたその先輩が三送会で、俺は泣かないのかなって思ってたんだけどな、そう言って泣いていた。


 先輩のもらい泣きで、僕も涙ぐんだ。


 先輩の嬉し涙を見て、初めて彼女は満足そうに笑うのだった。


 もらい泣きもしない彼女に訊いてみた。

「泣かないの?」

彼女は少し潤んだ瞳で言った。

「思い出は笑顔の方が良いですから」

曰く、泣くのは一人になっても出来る。

涙より笑顔を共有したいんだそうだ。

「最後だからこそ、笑っていたいなって」

冷たいって言われることもありますけどね、と真っ直ぐな瞳を潤ませて困ったように彼女は笑った。

「以上○○回生、380名」

学年主任の先生が締めくくる。

僕達は礼をして着席した。