まだ肌寒い三月。

卒業式の朝。

僕、有馬友稀(ありまゆうき)は教室でいつものように仲の良いクラスメートと喋っていた。


 朝のHRから涙ぐむ女子もいて、僕は微笑ましく見ているけど、正直よくわからない。

「お前ら、そろそろ移動するぞー」

担任の掛け声で廊下に並んで教室から移動する。

体育館に入場が始まる。


 特に別れを惜しむことも無い。

僕は交友関係が広い方じゃないし、どちらかと言えば少人数でいつまでも一緒に居るようなタイプだ。

本当に仲の良い少人数とは卒業したって連絡を取り合うだろう。


 ――卒業しても、特に何も思わないのだろう。


 体育館の外には桜が見えた。

蕾が茶色い枝に色を付けているが、生憎今年は寒かったからか花は咲いていない。


 ――卒業式なんてこんなもんだ。


 僕は心のどこかで思っていた。


 特に何か思うわけでも無く、少しだけいつもより色付いて、けれど呆気なく過ぎ去って行く――それが卒業式。


 少し寂しい、今日の桜みたいな式だ。


 うちのクラスの入場が始まり、館内に入ると来賓、保護者、在校生からの拍手。


 それなりに楽しい三年間だった。

嫌なことはあまり無く、波風立てずに楽しんできた。

多くは無い仲間と楽しく笑い合えていれば満足だったのだ。


 ・・・やがて式は始まった。