入学式から数日経った部活紹介を含めたオリエンテーションでは、運動部と文化部を合わせた二十以上の紹介がされる中、やはり美術部は単語すら出てこなかった。ある日の放課後、別件で長谷川先生に呼び出されて職員室にきた私は、次いでに美術部について尋ねてみた。先生は途端に眉をひそめると、怪訝そうな顔をして教えてくれた。
「美術部? 学科として特別に芸術コースがあるんだ。部活の一環で同じものがあるのはおかしいだろう。そもそもなぜ受験の時に選ばなかった?」
「それは、すでに募集が終わって……」
「つまり、浅野は別に芸術には興味なかったってことだろう? それを存在しない美術部に入ろうなんて、芸術コースをバカにしているのと同じだぞ」
 視界の端で職員室にいるほとんどの先生が嫌そうな顔をしているのが見えた。先生は美術部に入りたいなら最初から芸術コースに入っていればいいと、言い方が違うだけで同じことを繰り返す。中身のない、空っぽな話に耳にタコができるかと思った。
「――だから、美術部は存在しない。わかったら他の部活にしなさい。確かに強制ではないが、今後の浅野の学校生活や内申点に繋がってくるだろうし、毎日が難しければ週二日で活動している同好会でも良いんじゃないか? それに今、俺が担当している演劇部も人が足りなくてだな……」
「強制でなければ入るつもりはないので……。すみません、失礼します」
 逃げるようにして職員室から出ていく。どの先生も私を睨んだ。蔑むような、汚いものを見るような、冷たい視線だった。
 なぜそれほどまでに美術部の存在を毛嫌いするのだろうか。先生の言い分でいえば、校内のニュースや話題を取り上げる新聞部と、生徒会で校内新聞を月に一回のペースで発行している編集委員会だってどちらか一つに絞るべきだ。生徒会の管轄が優先されるのであれば、廃止されるのは新聞部の方だろうけど。
 それほどまでに先生たちの態度は異常だった。まるで生徒――特に新入生――を近づけさせないようにしているようにも見える。だからこそ一つの確証が持てた。
 美術部は確かに存在する。