遮るようにして言った私に、視線を逸らしていた早紀が驚いてこちらを見た。自分勝手なところはよく知っているから今更だけど、だったら私も勝手にしてやる。
「早紀って本当に人の話を聞かないよね。ううん、私の話をまともに取り合ったことなかったもんね」
「え、えっと……?」
「さっきから自分のことばっかりじゃん。私の話を聞こうともしないで、勝手に解決したことにしないでくれる? 私だって言いたいこと山ほどあるのに、なんで早紀ばっかり言って終わりにするの? 全部自分が悪いで簡潔にまとめたものだけで納得できるほど、私は大人な対応できないから!」
「ちょ、ちょっと待って、なんなのいきなり!」
 ぐいぐいと距離を詰めて意図的に壁際に追い込むと、早紀は焦った様子で私を怪訝そうに見る。
「私はね、早紀がいてくれてよかったと思ってる。もちろん早紀の性格は本当に嫌いだし、なんで私だけにマウントを取ってくるのか意味がわからなかった。それを羨ましかったからなんて言葉で片付けないで。それとも、私が今まで仕方がなく一緒にいたとでも思ってるの?」
「思ってるって、実際にそうでしょ!」
「違うよ! 自分で望んで一緒にいたの。……早紀が助けてくれたから、信じることにしたんだよ」
 私が息をひそめるきっかけになった中学でのグループ発表の時、周りが笑い、ひそひそと陰口を叩く中、早紀だけが私を笑わなかった。それどころか、私を背に隠して気を逸らすように自分の発表を堂々とやり遂げたのだ。もちろん、天と地ほどの差となった発表で、陰口が減ることは無かったけれど、早紀は私に話し続けてくれた。たとえそれが自分の為だったとしても、私にとって恩人に変わりはなかった。それほどまでに、私は彼女に依存していた。
「早紀がいなかったら、私はこの学校に入学してないし、部活もしてなかった。今の私があるのは早紀のおかげ。関わらないなんて、そんな寂しいこと言わないで」
「佐知……」
「でも今度からハッキリ言うから。もう遠慮しない。……だから、もっと喧嘩しようよ」
 お互いの嫌なところも全部含めて、何でも言い合える相手になりたい。ずっと考えていたことをようやく言葉にできた。息が乱れるほどの私の勢いに、早紀は戸惑いを隠せなかったけど、最後は諦めたように大きな溜息をついた。
「……本当、不器用だね。普通、喧嘩しようなんて言わないよ?」
「うっ……」
「でもそれが佐知なんだって、一緒にいたのに今初めて知った」
 面倒臭そうに言いながらも頬が緩んでいたのを、私は見逃さなかった。