「生まれつき身体が弱くてさ、余命宣告を受けたのは一年のちょうど今頃かな。随分長生きしていると思うよ。でも俺は香椎の失明よりも早く、見えなくなるどころか死ぬんだって」
 鈍器で殴られた気分になった。先輩の言葉をうまく飲み込めなくて、ただ早くなる心音が脳内を占領する。本能的に拒否している。先輩の言葉が、どうか嘘であって欲しいと縋り付くように。
 高嶺先輩はさらに続けた。
「ちなみに香椎は知ってるよ。宮地さんには持病持ちとしか伝えていない。……でもそろそろ伝えておかないとな。本来なら夏休みに入ったら入院することは決まっていたから、話を切り出すタイミングとしては良かったのかもしれない」
「嘘、じゃないんですよね‥…?」
「ごめんな。言おうとは思ってた。さすがに事故に巻き込まれるとは想定外だったし。でも伝えることなく消えることはしなかった、それだけは信じてよ」
「だったら! そんなこと、言わないでください……っ」
 酸欠になりかけながらも高嶺先輩の方を見れば、涙が滲んでぼんやりと映る。先輩は笑っていた。
「それは佐知を仲間外れにしようとしたこと? それとも、俺が死ぬこと?」
「……両方、って言ったら、ダメですか」
 泣かないようにと必死に抑えていた声は、自分でも驚くほど震えていた。
 先輩たちと一緒にいる時間が好きだ。この夏が過ぎた後も、文化祭で展示した絵を沢山の人に見てもらって、卒業式まで見送ることができる。――今もそう信じてやまないのに。
 人が生まれて死ぬことだけは最初から決まっている。その長さは、皮肉にも人によって異なるたったそれだけのことだとわかっているのに、突きつけられた現実をどうしても受け入れられない。
 なんで人は死ぬんだろう。
 なんで先輩なんだろう。
 もしタイムリープをして未来を変えられるとしたら、どこまで遡れば救えるのだろう。
「……やっぱり、佐知には言いたくなかったな」
 呟かれた言葉が、深く深く刺さる。仲間外れは嫌だと言っていたくせに。
「――私だって、聞きたくなかった!」
 高嶺先輩の制止する声を振り払って、私は病室を飛び出した。すれ違うお見舞いに来た人に何事かと目で追われる中、曲がり角で誰かとぶつかった。しまった、と思った時にはもう遅くて、よろけて後ろに倒れそうになった途端、私の腕を掴まれる。顔を上げると、そこには後から行くと言っていた香椎先輩がいた。
「佐知? びっくりした、いきなり出てくるなよ。……って、何かあったのか?」