「つい最近、タイトルに惹かれた映画を観たんだ。ぎこちない二人が向き合おうとした直後に事故に遭って、相手を助けるためにタイムリープを繰り返す話。改めて考えるとすごいことだよな。自ら残酷な世界に飛び込むってかなり勇気がいると思う。辛い経験を何度も繰り返して未来を変えようとする。――これが現実に起きたら、救えなかった人も救えるかもしれないって希望すら感じたよ」
夕日が窓から差しこんだいつかの美術室で、高嶺先輩は休日に観てきたばかりの映画についてそう語った。まだ私のことを「浅野」と名字で呼んでいた頃だ。緊張している私をリラックスさせようとして話したのだろう。その表情は活き活きとしていて、タイムリープに憧れを抱いているようにも見えた。
私が何の気無しに「先輩はタイムリープできるなら、いつの時代に戻りたいですか?」と訊くと少し考えて、イーゼルの前でカンバスと対面する気難しそうな顔の香椎先輩を見てから言う。
「過去に戻りたいとは思わないけど、時間は止まってほしいかな。香椎や浅野の絵を、まだまだ見ていたいからさ」
問いかけた答えになっていなかったけど、その時は不思議と先輩らしいと納得してしまった。
高嶺先輩は美術部として誇りを持っている。最後の年に認められた範囲での活動で、多くの人に香椎先輩の絵を見てほしいと語る姿は本当に心強かった。
――今思えば、あの答えは希望ではなく、切実な願いだったのかもしれない。