聖來がアイドルを目指すことを決めた日。

「セーラちゃん、カリンちゃんよりもすごいアイドルになってよ!」
「うん、セーラ、アイドルになる!」

 聖來は桂太の手を両手で握りしめて答えた。再び談笑を始めた母親たちを横目に、桂太は聖來の手を引いて子供部屋へと向かう。

「どうしたの?」

 いきなりリビングから連れ出された聖來は不思議そうに首を傾げた。普段内気な桂太が、聖來の目をまっすぐに見つめて告げる。

「あのね、僕、聖來ちゃんが応援してくれるなら絶対強くなる。パパよりもおじいちゃんよりも強くなって、プロ棋士になる!」
「桂ちゃんならなれるよ、セーラも絶対アイドルになるから、桂ちゃんも将棋のプロになってね!」
「うん、そしたら聖來ちゃんのライブは行く!1番前のど真ん中で聖來ちゃんのこと見に行く!」
「約束だよ!桂ちゃん、約束の指切りしようよ!」

 聖來が小指を差し出すが、桂太は手を出さずに顔を赤らめて俯く。しかし、意を決して再び口を開いた。

「もう1個、お願いがあるんだけどいいかな?」
「なあに?」
「あのね、僕がプロ棋士になって、聖來ちゃんがアイドルになったら……」

 桂太は小指を差し出した。

「僕と、結婚してください!」