【8】
下津浦慧とは、どのような人物だったのか。
卒業後にこの街から離れることを慧に告げた日以来、名緒の中で彼のことを知りたいという気持ちが、大きく膨らんでいた。
今の慧ではない、生前の「下津浦慧」のことだ。
これまでも、気にならなかったわけではない。けれど、慧が生きていた頃のことをあまり語ろうとしないので、積極的に探ろうとするのを避けていたのだ。
──けれど、慧が寂しさの滲んだ声で「行ってしまうんだね」と名緒に告げた日から。
このまま学校を、この街を去ってしまっていいのだろうか、という気持ちが、芽生え始めたのだ。
名緒は、慧をこの場所に置いていく。それは、学校を卒業する以上、そして東京へ旅立つと決めた以上、避けられないことだ。
けれど、下津浦慧という人物のことを何も知らないまま、ここを離れることになるのは……嫌だ、と思った。
自室でひとりきり、名緒はベッドに腰掛けてスマートフォンと向き合っていた。両親はすでに仕事に出ており、遅めの朝食をひとりで終えたところだ。今日は登校日ではなく、誰かと会う予定もない。
しばらくの間、検索エンジンと睨み合っていた名緒は、やがてそこに文字を入力していった。
最初に入れたのは、自分の住んでいる市の名前だ。それから、少しのためらいを挟んだのち、「高校生 事故」のキーワード。さらに、五年前の西暦を入れて、検索ボタンをタップする。
初めて会った時、慧は「学校で死んだわけじゃない」と言っていた。だから名緒は、彼がどこで亡くなったのかすら知らない。
まずは、そこから手がかりを得ようと思ったのだ。事故で亡くなっているのなら、ニュースになっている可能性がある。
すぐに検索結果が表示された。名緒が思ったとおり、いくつかのニュース記事が並んでいる。
その中で、一番上に表示された記事に目を通していった。
五年前の日付。高校三年生の男子が亡くなったということを簡潔に伝える記事だった。けれど名緒は、そこに意外な単語を見つけ、思わず口に出していた。
「……転落死」
事故、と聞いていたため、てっきり交通事故かなにかだと思いこんでいた。しかしその記事には、雑居ビルの屋上から転落したと思われる、と書かれていたのだ。
名前を伏せて書かれているため、これが慧に関する記事だという確証はどこにもない。けれど、県の外れにあるようなこの市で、ニュースになるような出来事はそう多くない。亡くなったとされる年と、高校三年生の男子という部分が一致するだけでも、これが慧の死について触れた記事であると考えるのは、間違っていないように思えた。
さらに記事を読み進めた名緒は、すぐ後に綴られていた文章に、思わず呼吸を止めた。
瞬時に部屋の気温が下がったような寒気を覚えつつ、その記事を最後まで読み終えると、ページを戻る。
さらに検索結果を辿っていくと、匿名の大型掲示板の書き込みと思しきものを見つけ、今度はそれをタップした。
そして、そのページの書き込みに一通り目を通した後、名緒は勢いよくベッドから立ち上がると、すぐさま部屋着を脱ぎ始めた。
下津浦慧とは、どのような人物だったのか。
卒業後にこの街から離れることを慧に告げた日以来、名緒の中で彼のことを知りたいという気持ちが、大きく膨らんでいた。
今の慧ではない、生前の「下津浦慧」のことだ。
これまでも、気にならなかったわけではない。けれど、慧が生きていた頃のことをあまり語ろうとしないので、積極的に探ろうとするのを避けていたのだ。
──けれど、慧が寂しさの滲んだ声で「行ってしまうんだね」と名緒に告げた日から。
このまま学校を、この街を去ってしまっていいのだろうか、という気持ちが、芽生え始めたのだ。
名緒は、慧をこの場所に置いていく。それは、学校を卒業する以上、そして東京へ旅立つと決めた以上、避けられないことだ。
けれど、下津浦慧という人物のことを何も知らないまま、ここを離れることになるのは……嫌だ、と思った。
自室でひとりきり、名緒はベッドに腰掛けてスマートフォンと向き合っていた。両親はすでに仕事に出ており、遅めの朝食をひとりで終えたところだ。今日は登校日ではなく、誰かと会う予定もない。
しばらくの間、検索エンジンと睨み合っていた名緒は、やがてそこに文字を入力していった。
最初に入れたのは、自分の住んでいる市の名前だ。それから、少しのためらいを挟んだのち、「高校生 事故」のキーワード。さらに、五年前の西暦を入れて、検索ボタンをタップする。
初めて会った時、慧は「学校で死んだわけじゃない」と言っていた。だから名緒は、彼がどこで亡くなったのかすら知らない。
まずは、そこから手がかりを得ようと思ったのだ。事故で亡くなっているのなら、ニュースになっている可能性がある。
すぐに検索結果が表示された。名緒が思ったとおり、いくつかのニュース記事が並んでいる。
その中で、一番上に表示された記事に目を通していった。
五年前の日付。高校三年生の男子が亡くなったということを簡潔に伝える記事だった。けれど名緒は、そこに意外な単語を見つけ、思わず口に出していた。
「……転落死」
事故、と聞いていたため、てっきり交通事故かなにかだと思いこんでいた。しかしその記事には、雑居ビルの屋上から転落したと思われる、と書かれていたのだ。
名前を伏せて書かれているため、これが慧に関する記事だという確証はどこにもない。けれど、県の外れにあるようなこの市で、ニュースになるような出来事はそう多くない。亡くなったとされる年と、高校三年生の男子という部分が一致するだけでも、これが慧の死について触れた記事であると考えるのは、間違っていないように思えた。
さらに記事を読み進めた名緒は、すぐ後に綴られていた文章に、思わず呼吸を止めた。
瞬時に部屋の気温が下がったような寒気を覚えつつ、その記事を最後まで読み終えると、ページを戻る。
さらに検索結果を辿っていくと、匿名の大型掲示板の書き込みと思しきものを見つけ、今度はそれをタップした。
そして、そのページの書き込みに一通り目を通した後、名緒は勢いよくベッドから立ち上がると、すぐさま部屋着を脱ぎ始めた。

