「誰」
「……そっちこそ。」
チョコレートのような茶髪。青く澄んだ瞳。月明かりが反射した紺色のブレザーに、青いチェック柄のネクタイ。口ぶりだけから見ると、お世辞にもイケメンとは言い難い。
「…しょうがないな、僕から自己紹介してあげる」
(偉そっ…)
「赤坂高校在学の白間明石。高校__……。」
「あー、いい、いい。白間、明石。高校"1年生"…でしょ?」
「…はいはい、当たり当たり。つか、なんで分かったの。」
「上履き。」
「……上履き?」
赤坂高校は1年生が青、2年生が黄色、3年生が赤、となっている。つまり彼は上履きのラインが緑でヒットした、と言うことだ。
「緑のライン。赤坂高校1年生のし・る・し。」
「…ああ、なんだ。そういうこと。」
ぶっきらぼうに返す白間に少しばかり腹が立ったが、それは置いておこう。
「同じく、赤坂高校3年生、赤瀬白葉。」
「あっそ。…この景色、僕だけが独り占めしたいから。…さっさとあっち行ってくれる?」
「…あーあー、分かりましたよ。年上だから、おこちゃまの言うことひとつぐらい聞いてあげる。」
我ながらいい煽りだと思う。白間にわざわざ言うことでもないが、生意気さ、とか、どこか幼さを見せるところとか、よく世間の弟の定義に似てると思う。
「…はぁ?ばっからし、赤瀬の"おこちゃま"の範囲ひっろいね。」
「ぜーんぜん?"精神年齢"が…。ってこと。まぁ、おこちゃまには分かんないか?チビだし。」
「それ言うの。…べつに、慣れてるからいいけど……。そっちこそ、デカ女。」
「言っとくけど165だし。キミがちっちゃいだけ。中1みたい(笑)」
けらけらと、やや侮辱するような笑みを浮かべる。白間はすーっごく、不服そうだけど。
「……それが初対面の人に対する対応ですか。あーあ、そうですかそうですか!……覚悟しろっ!」
近くの海の水を手で覆い、白間は私に向かってそれを広げた。
「つっめた!?…まーじでがきんちょ……!」
「うわっ!ここまでとは思わなかった、氷みてー。」
しばらく水を互いに掛け合う。ふと空を見ると、赤とオレンジのグラデーション、加えて、水平線には紫色が線引きされていた。勿論、まだ星はちらほら降り注いでいるが。
「白間!見て、空、すっごい綺麗!!」
「…ほんとだ!…ほら、あれも!」
そう言いながら私の腕をぐいぐい引っ張って、少し前のめりで指を指す。
白間が指しているのは、花霞だった。無論、もう桜はほどんど散っており、所々に葉っぱが混じっていた。
「…もうすっかり朝になっちゃったね」
「ね。…というか今気づいたけど、名前、似てるね。」
「どっか似てたっけ、」
「ほら、"白間"と"白葉"。どっちも真っ白だし、"明石"と"赤瀬"。読み方、"あか"は、いっしょでしょ?」
「…あ、本当だ。……ふふっ、兄弟みたい。」
「はー?お前と兄弟とかやだなー。意地悪だし。」
「お互い様ですー。そんなの。…ほら、もう家帰ったら?」
「…わかりましたよ。帰るわ。」
「……まぁ、楽しか、った。」
口をもごもごさせて、ようやっと白間が口にした。恥ずかしがっているところがまた、愛おしかった。
「…あははっ、かわいーとこあんじゃん。」
そうふいに零した時にはもう白間は割と遠くに消えかかっていて、寂しげに背を向かせていた。
__どうしようか。言おうか。
…言わなかったら、後悔するだろうか。
いつか、またここで会えたら。
「__……またねっ!!」
そう風の声に負けず、大声で叫ぶ。近所迷惑だったかもしれないが、ちょっとぐらいは許してくれるだろう。
叫びを聞いた白間がぴく、と肩を動かし、後ろをぐんっと向き振り返る。
「御免だよ!」
もっともっと大きい声でそう返される。……ああ、言ってよかった、と心底思った。
「……そう言いながらも、笑ってるくせに。」
その頃にはもう空は青みがかっていて、ここに、海に、樹海に、死に来たと言うこともすっかりと忘れており、立ち入り禁止のテープの外へと身を急いだ。
「……そっちこそ。」
チョコレートのような茶髪。青く澄んだ瞳。月明かりが反射した紺色のブレザーに、青いチェック柄のネクタイ。口ぶりだけから見ると、お世辞にもイケメンとは言い難い。
「…しょうがないな、僕から自己紹介してあげる」
(偉そっ…)
「赤坂高校在学の白間明石。高校__……。」
「あー、いい、いい。白間、明石。高校"1年生"…でしょ?」
「…はいはい、当たり当たり。つか、なんで分かったの。」
「上履き。」
「……上履き?」
赤坂高校は1年生が青、2年生が黄色、3年生が赤、となっている。つまり彼は上履きのラインが緑でヒットした、と言うことだ。
「緑のライン。赤坂高校1年生のし・る・し。」
「…ああ、なんだ。そういうこと。」
ぶっきらぼうに返す白間に少しばかり腹が立ったが、それは置いておこう。
「同じく、赤坂高校3年生、赤瀬白葉。」
「あっそ。…この景色、僕だけが独り占めしたいから。…さっさとあっち行ってくれる?」
「…あーあー、分かりましたよ。年上だから、おこちゃまの言うことひとつぐらい聞いてあげる。」
我ながらいい煽りだと思う。白間にわざわざ言うことでもないが、生意気さ、とか、どこか幼さを見せるところとか、よく世間の弟の定義に似てると思う。
「…はぁ?ばっからし、赤瀬の"おこちゃま"の範囲ひっろいね。」
「ぜーんぜん?"精神年齢"が…。ってこと。まぁ、おこちゃまには分かんないか?チビだし。」
「それ言うの。…べつに、慣れてるからいいけど……。そっちこそ、デカ女。」
「言っとくけど165だし。キミがちっちゃいだけ。中1みたい(笑)」
けらけらと、やや侮辱するような笑みを浮かべる。白間はすーっごく、不服そうだけど。
「……それが初対面の人に対する対応ですか。あーあ、そうですかそうですか!……覚悟しろっ!」
近くの海の水を手で覆い、白間は私に向かってそれを広げた。
「つっめた!?…まーじでがきんちょ……!」
「うわっ!ここまでとは思わなかった、氷みてー。」
しばらく水を互いに掛け合う。ふと空を見ると、赤とオレンジのグラデーション、加えて、水平線には紫色が線引きされていた。勿論、まだ星はちらほら降り注いでいるが。
「白間!見て、空、すっごい綺麗!!」
「…ほんとだ!…ほら、あれも!」
そう言いながら私の腕をぐいぐい引っ張って、少し前のめりで指を指す。
白間が指しているのは、花霞だった。無論、もう桜はほどんど散っており、所々に葉っぱが混じっていた。
「…もうすっかり朝になっちゃったね」
「ね。…というか今気づいたけど、名前、似てるね。」
「どっか似てたっけ、」
「ほら、"白間"と"白葉"。どっちも真っ白だし、"明石"と"赤瀬"。読み方、"あか"は、いっしょでしょ?」
「…あ、本当だ。……ふふっ、兄弟みたい。」
「はー?お前と兄弟とかやだなー。意地悪だし。」
「お互い様ですー。そんなの。…ほら、もう家帰ったら?」
「…わかりましたよ。帰るわ。」
「……まぁ、楽しか、った。」
口をもごもごさせて、ようやっと白間が口にした。恥ずかしがっているところがまた、愛おしかった。
「…あははっ、かわいーとこあんじゃん。」
そうふいに零した時にはもう白間は割と遠くに消えかかっていて、寂しげに背を向かせていた。
__どうしようか。言おうか。
…言わなかったら、後悔するだろうか。
いつか、またここで会えたら。
「__……またねっ!!」
そう風の声に負けず、大声で叫ぶ。近所迷惑だったかもしれないが、ちょっとぐらいは許してくれるだろう。
叫びを聞いた白間がぴく、と肩を動かし、後ろをぐんっと向き振り返る。
「御免だよ!」
もっともっと大きい声でそう返される。……ああ、言ってよかった、と心底思った。
「……そう言いながらも、笑ってるくせに。」
その頃にはもう空は青みがかっていて、ここに、海に、樹海に、死に来たと言うこともすっかりと忘れており、立ち入り禁止のテープの外へと身を急いだ。