仕事には集中させてくれて、会った時も疲れている俺を気遣って、旅行に行きたいだとかドライブに連れていってだとか、そういうワガママも言わなくなった。俺はそれをいいことに、真衣になにもしてやらなかった。「ありがとう」や「ごめん」を言わなくても分かる子なんだって思い込んでて、我慢させてることに全く気づかなくて、「別れよう」って言われるまで俺と真衣はずっと一緒なんだと信じて疑わなかった。バカだよな、ホント。

 どうして別れたいなんて言うのか分からなかった俺は理由を聞いた。そうしたら『本当はずっと寂しかった』って真衣は言った。

 その時初めて我慢させていたことに気がついた。どうして言ってくれなかったんだと言いそうになったけれど、言わせないようにしていたのは俺の方だ。俺は社会人で真衣は学生。働く者と働かざる者。俺の方が偉いんだと、知らない間に威張っていた。恋人はいつだって対等でなければならないのに。

 ……会いたいな。

 スマホの写真ホルダーをタップして過去を見返す。花火を観に行った日、動物園に行った日、水族館に行った日、遊園地に行った日、家でたこ焼きパーティーをした日、ちょっと高めのご飯を食べに行った日。どれも昨日のことのように鮮明に思い出され、写真の中では俺の隣に真衣がいるのに、今俺の隣にいないことがひどく寂しい。視界が霞んで、頬に温かいものが流れた。拭くこともせずに感情のまま涙を流す。

 別れを切り出されたとき、引き止めなかったことを今更後悔した。

 いつだって隣で笑っていてくれた真衣が恋しい。それが当たり前だと思っていた自分が憎い。もう一度やり直すことができるなら、もう二度と同じ過ちは繰り返さないと誓う。これから先の未来は真衣と一緒に歩んでいきたい。真衣の隣を歩いているのが俺以外の男なんて、そんなの絶対許せない。

『私も元気だよ』と表示されたメッセージに返事を送る。すぐ既読がついたけど返事が中々来ない。呆れたのか、それとも悩んでいるのか。

 やっと届いたメッセージは、ひどく乾いた文字だった。

『もう遅いよ』

ポケットにしまった真衣との日々を取り出して、もう一度チャンスが欲しいと強く願う。


END.