真衣と別れて一ヶ月が経った。彼女から別れを切り出された時は、仕方がないかと諦めて頷いたけれど、思い出せば思い出すほど彼女への想いが溢れてきて眠れない日々が続く。

「友だちに戻ろう」と言われて別れたから、メッセージのやり取りもしない方がいいのかな、と思って指が動かなかったけど、彼女の方から『元気?』ってメッセージを受け取ったら思わずすぐに『元気だよ。真衣は?』って送っていた。

 まるで付き合う前みたいだ。思わず笑ってしまった。

 ふと足首を見ると、付き合い始めた頃に真衣が作ってくれたお揃いのミサンガが巻いてある。俺は青系統で真衣はオレンジ系統。「手首に巻いて欲しい」とせがまれたが、さすがにサラリーマンが手首にチャラチャラしたものを着けるのはマズいと思って、足首で許してもらった。

「ミサンガを着ける時は、願い事をしながら着けるんだよ」と言われ、柄にもなく『真衣とずっと一緒にいられますように』なんて願いながら着けたな。自然と切れた時にその願いが叶うらしいから、自分からは切れないでいる。

 出会った頃、俺は社会人で真衣は大学生だった。同僚の彼女が大学生で、その子の友だちを紹介してもらったのだが、一目見た時から『いいな』と思った。つまりは一目惚れしたわけだ。年下というフィルターもあったと思うが、なによりガツガツしてなくて控えめで、ザ・女の子といった雰囲気が俺的にはドストライクだった。

 ただ一度だけわがままを言ったことがあった。俺の仕事が繁忙期を迎え、彼女のことを一切考えられなくなった時だ。「寂しい」「会いたい」「抱きしめて欲しい」と珍しくぶつかってきた。余裕のなかった俺はただ「仕事が忙しいから」と拒絶した。自分も学生の時があったので、彼女が時間を持て余していることは分かっていた。でも、彼女なら分かってくれると思った。俺は仕事をしていて、しかも忙しい。二つのことを同時にできるような器用さはないので、仕事に集中するときは真衣のことは考えられない。

 すると俺の気持ちが伝わったのか、「会いたい」だとか「寂しい」だとか言わなくなった。聞き分けのいい子で、会った時にすごく嬉しそうにしてくれるから、分かってくれたんだと思っていた。