でも好きだったから、重い女だと思われたくなくて聞き分けの良い振りして、寂しい気持ちは押し込めて、会えた時には犬みたいに尻尾を振って駿の言うことを聞いた。

 もちろん、夜は寂しさのあまり何度も泣いた。『やっぱり寂しい』って何度もメッセージを送ろうとしたけど、ウザがられたくない気持ちの方が大きくて、結局言えなかった。

 日に日に好きな気持ちが募っていくのに、駿は日に日に遠くなる。そっちがその気なら私だって、ってメッセージの返事を遅らせたり、『いついつ会えるよ』のメッセージに『その日は友だちと約束があるから』って嘘ついたりしたけど、結局会いたくなって『友達にドタキャンされた』って言って駿に会いに行った。

 すごく努力した恋だったな、と振り返って思う。髪が長い子が好きだって駿が言うから伸ばして毎日手入れしたし、清楚系の服が好みだって言うから落ち着いた色の服を着たりして駿の理想の女の子になろうと必死だった。それだけ好きだったのだ。優しくて、笑顔が素敵で、たまに甘えてくるところが可愛くて。いつの間にかすれ違ってしまったけれど、愛されていると思う瞬間はいくらでもあった。

 もうそれも懐かしい過去の思い出だ。

 嫌いになったわけじゃないし、むしろ好きだけど、好きだけじゃこの先も駿とずっと一緒っていうわけにはいかなかった。それは離れて気づいたこと。多分、駿の隣にいるべきなのは私じゃない。駿の仕事に理解があって、会えない時間は自分の趣味に時間を充てられる、柔軟性のある人の方が、駿には合ってると思う。子どもっぽい私では、ダメだったというだけだ。

 大丈夫。駿の前には私なんかよりもっといい人が現れる。

 スマホが震えた。『私も元気だよ』と送ったメッセージに返事が来た。そこに表示された文字を読んで少しだけ悲しくなった。

『もう一度やり直したい』

 振り返らないで欲しかった。私のことなんて忘れて、次の恋にいって欲しかったのに。

 すれ違った想いはもう二度と交わらない。駿は振り返って過去の過ちをやり直したいと言うけれど、過去は過去だと割り切って進んで欲しいと強く願う。

『もう遅いよ』

 楽しかった日も、ひとりで泣いた日も、全部をポケットにしまって、私は前に進む。