駿と別れて一ヶ月が経った。自分から別れを切り出しといて、別れたばかりの頃は散々泣いたけど、泣き尽くしたのかもう思い出して泣くことはなくなった。

「友だちに戻ろう」と言って別れたから、急にやり取りをしなくなるのはおかしいかな、と思って『元気?』ってメッセージを送ったら、『元気だよ。真衣は?』って驚くほど早く返事が来た。

 まるで付き合う前みたいだ。思わず笑ってしまった。

 駿は私が大学生の時に友だちに紹介された人で、年上の社会人だった。友だちの彼氏が年上の社会人で、その繋がりで紹介されたのだ。普通のサラリーマンで雰囲気が優しく、最初は大人びてていいな、くらいにしか思っていなかったけれど、四人で遊んだり二人で会ったりしているうちに好きになった。

 社会人と学生なんて上手くいくわけないと思って友だちのままでいようとしたけど、駿の方から「付き合ってください」と言ってくれた。あの時は嬉しかったなぁ。『ずっと一緒にいられますように』って思いながら着けたお揃いのミサンガは、もうどこにいったか分からない。

 駿は休みの日によくドライブに連れていってくれた。外食にも連れていってくれたし、買い物にも連れていってくれた。でもそれは最初の頃の話で、半年も経てば一ヶ月に一、二回会えればいい方になった。

 私は学生で駿は社会人。生活リズムも違えば時間の使い方も違う。メッセージを送っても一日二日経って返ってくることはザラで、ひどい時には二週間放置なんてことも当たり前にあった。

 ただただ、寂しかった。忙しいことは分かっていたつもりだったけど、返事も出来ないほど忙しいのが、どういうことか私には分からなかった。

 だから一度、正直に「寂しい」と言ったことがあった。「会いたい」とも「抱きしめて欲しい」とも言った。でも駿は「仕事が忙しいから」の一点張りで、平日に会ってくれることはなかった。

 学生の私には分からなかったのだ。仕事が忙しくてもちょっとの時間くらい作れるはずだと思っていた。トイレとかお風呂とか寝る前の数分とか、その時間を私に割いて欲しかった。それもできないなんて、私は愛されていないんだと本気で思った。