夜が明けると昨夜起きたことが町全体へと知れ渡る。
 荒くれ者達は度々町に現れては傍若無人な振る舞いで酒場を荒したり、人攫いなんかもしてたという話がレイの耳に入ってきた。西の荒野を拠点とする盗賊団の一部で住民も彼らには程々頭を抱えていたという。

 そもそもこの話がレイに持ち掛けられたのはガトーの一言だった、大剣を軽々と持ち上げたレイに何かあると思ったガトーはすぐにでもレイが何者でなんの目的でこの町にまで来たのかを問いただしていた。そこで発覚したのが剣聖カルナック・コンチェルトの弟子である。にわかには信じ難い話ではあったが町の住人の力自慢達やガトー本人でも持ち上げられなかったあの大剣を軽々と持ち上げたレイの言葉を信じてみようと思ったのだという。結果、手を焼いていた盗賊団の一部はレイの手によって処理された。

 もちろん町の住人は喜んでいた、だが素直に喜べない人間もいる。ガトーもその一人ではある。まだ年端もいかない少年にこんなことを頼み、あまつさえ人を手にかけさせたのだ。こればかりは本人もかなり悔やんでいた様子だった。事情はどうあれ言ってしまえば殺人である。本人にも負担がのしかかるだろう。そう思っていた。

 日が昇りまもなく正午になる少し前になったところでレイが部屋から出てきた。気まずそうな顔をするのはもちろんガトーである。そんなことを余所にレイはカウンターに座るとコーヒーを注文する。

「どうしたんですかおやっさん」

 さすがに様子が変だと思われたのだろう、どこか余所余所しいガトーと様子が気になったレイはすかさず尋ねる。

「いや、昨夜はすまなかった」
「何がですか?」

 キョトンとした顔で出されたコーヒーに手を伸ばす。

「お前さんの言葉を信じてあんなことを頼んじまったことだ」
「あぁ、気にしないでください。おやっさんが僕に頼まなくても昨夜は同じようになってたんですから」

 熱々のコーヒーを口元に運びながらゆっくりと覚まして一口飲んだ。その言葉を聞いたガトーは驚いた様子で。

「同じようになってた?」
「そうですよ、おやっさんが僕に頼まなくてもあいつ等は何時ものようにやってきて暴れてたんだと思います。それを見た僕は彼らを同じようにしてましたよ。だから何もおやっさんが気を病むことじゃないんです」

 揺ら揺らとカップの中でコーヒーを揺らしながらそう答えた。それを聞いて少しだけ安堵の様子を見せるガトーだったが、レイの少し寂しそうな表情が目から離れない。

「どうせ旅の途中です、情報収集をするためにもまだこの町に滞在するんですからそれなりに働かせてもらいますよおやっさん。宿泊料と御飯代がタダなんですからそれぐらいはさせてもらわないと僕が先生に怒られてしまいます、なので今の僕はさしずめ用心棒って事で」

 その寂しそうな表情はすぐに笑顔へと変わった。

「いや、すまねぇ……代わりに良いものやるからそれで機嫌を取ってくれ」

 そう言うとポケットから一つの石を取り出す、それを徐にレイの方に投げるとレイは片手でキャッチした、丸い直径二センチ位の小さな蒼い玉だった、綺麗な石ですねと子供みたいな事を言うレイに男は、

「そいつは幻聖石と言ってな、この地方じゃ滅多に取れない鉱石の一つだ。 その石を左手に持っておめぇさんの剣を右手に持ってよ、それを一緒にするようにイメージしてみな? 良い事が起きるぜ!」

 何が何だかさっぱりのレイは言われるままにしてみた、目をつむり両方のイメージを組み合わせる、するとレイの持っている剣と幻聖石は光だし一緒に成るかのようにお互いが共鳴し始める、何事かとレイはとっさに目を見開くと剣が小さくなりそのまま幻聖石の中に吸い込まれた。

「え? え? えぇぇぇ!?」

 状況を全く理解出来ないレイに男は 。

「幻聖石、別名『旅袋』っていってな。どんなに大きな物でもその中に収納出来る優れものさ、あんたの剣は大きくて邪魔だろうと思ってな。昔に手に入れたそいつをお前さんにやろうと思ってよ、どうだ? 気に入ったか?」
「もの凄く便利なんですけど、どうやって取り出すんですか?」
「幻聖石を握りしめてその中に入ってる物をイメージするだけで出てくるぜ?」

 そう言われるとレイは自分の剣をイメージした、すると幻聖石は蒼い光を一筋剣の形にしながら伸びるとその光は完全に剣へと姿を変える。だが、手には幻聖石は形も残らない。

「剣が出てきたのは良いけど、幻聖石は?」
「幻聖石はもうその剣と融合したから剣を出すと無くなっちまうんだ。その代わり剣を持ちながら幻聖石をイメージすると戻る」

 なるほど、そんな言葉を一言零すと大きな自分の剣を幻聖石に納めたまま腰の小物入れにしまった。

 その後、レイは町の中を散策し始めた。本来の目的のために情報を集めるとガトーに伝えて酒場を後にする。まず初めに向かったのが町長の家だ。木造だがしっかりとした作りである、特にかざりっけは無いものの屋根に風見鶏がついているのですぐに分かった。あらかじめガトーから教えてもらった特徴だ。

 ドアをノックすると町長本人が出てきた、軽く会釈をするレイに対し町長は握手を求めてきた。昨夜のお礼を言いたいとのことだそうで家の中へと迎えられた。少量ではあるが金品を出されたがレイはこれを断る、報酬ならガトーからすでにもらっていると伝えると今度は自分の本題を話し始める。

「――と言うわけなんですが、見かけませんでしたか?」
「そうさねぇ、見た記憶はないんだが……もし何か情報が入れば君に伝えよう。しばらくはガトーの所にいるのかい?」
「はい、しばらくはお世話になるつもりです」
「わかった、では何かあれば使いの者を出そう」

 目が覚めた初日にガトーにも同じ質問をし情報が得られなかったが今回も同じ結果となってしまった。まぁそう易々と見つからないのも事実でやっぱりといった感じではあった。それに対して落ち込む様子を見せるも何時もの事だと割り切ってすぐに笑顔を作った。

 レイが探し物を初めて早半年、彼の探し物は一向に見つからずこれで十何件目である。この酒場町にやってきたのもその情報収集と手がかりが無いか等を調べるためである。最初こそいつ見つかるのだろうと焦る様子が見えたものの、最近では慣れ始めてきたのか落胆はそこまでではなくなってきた。それでも精神的に来るものがあるのだろう。時折寂しそうな表情を浮かべてはすぐに笑顔を作るといったことが多くなってきている。

「だけどレイ君、探してる君に言うのもなんだが……その、彼は」
「えぇ、そうです。でもあいつは僕の友達なので」
「そ、そうか」

 レイが探しているもの、それは彼の親友。