「幻魔ぁ!」

 青髪の少年は傷だらけの身体だった。少年の目の前には邪悪な生き物に立っている、邪悪な生き物の横には二人の少年が不思議な光を身体から放射し邪悪な生き物の身動きを制御していた。
 邪悪な生き物に縦一閃、見た事のある剣が振るわれる、だがその剣は無情にも手応えのない事を傷だらけの少年に知らせそのまま空振りをした。

「無駄だ、我に傷を付ける事は出来ぬ!」

 邪悪な生き物は自分を縛り付けている目には見えない鎖が弱まった一瞬に二人を吹き飛ばした。
 青髪の少年を残し他の七人はその場に倒れ込んでいる。後のこっているのは青髪の少年ただ一人、左肩を負傷している青髪の少年が渾身の力で剣を握る。

「マダだっ!」

 天を仰ぎ剣を両手に構え前に倒す、すると剣から突如光が溢れ邪悪な生き物以外を光で包み込んだ。

「こ、これは!」

 邪悪な生き物が一瞬怯む、唯一にして絶対の力を発揮するその光に邪悪な生き物は怯える。
 そして直ぐさま邪悪な生き物は我が目を疑った、そこには倒れているはずの七人の傷が見る見るうちに治癒されていく、その中心に青髪の少年の姿が見える。

「今は倒す事が出来なくても、封印は出来る!」

 八人が一斉に走った、青髪の少年以外の七人が邪悪な生き物を取り囲みその手から不思議な魔法陣が浮き上がる。
 その紋章は次第に消え、邪悪な生き物を中心とする七人を取り囲み邪悪な生き物の頭上に一つの亜空間が生まれた。

「これで最後だ!」

 青髪の少年がその魔法陣-結界の中に強引に入り込み剣を邪悪な生き物に突き立てる、凄まじい光に包まれた剣が邪悪な生き物の身体を貫き通すと青髪の少年はそのまま邪悪な生き物の身体を亜空間のひずみに放り投げた。
 邪悪な生き物の身体は少しずつ、少しずつ亜空間のひずみに吸い込まれていく。だがその力は次第に失われていく。

「私は絶対だ、これ位の力では私は封印出来ぬ」

 青髪の少年は後少しという所で邪悪な生き物が無理矢理空間を開けて出てくるのを見た、だが次の瞬間青髪の少年の隣に居た二人が邪悪な生き物の方へ跳躍する。

「ミカエル! ヘル! 何をするつもりだ!」

 青髪の少年が叫ぶ、だが二人は跳躍している間に小さく残った者達へと

「じゃあな」「後は頼んだ」

 と小さく呟いた。
 二人は邪悪な生き物を無理矢理その空間に押し込め、自らもその空間に入った。

「やめろぉぉぉぉ!」

 青髪の少年が叫ぶ、だがその声は虚しくもその空間にただただ響いているだけだった。


 そしてまた暗闇が支配する世界へと変わった。レイは今目の前で行われた戦いが一体何を意味しているのかがサッパリ分からずただ黙ったままだった。

「僕は、あの人達を知ってる。あの人達を見た事がある。でも……誰だかは分からない、今何が起きた? このひどく懐かしい感じは何なんだろう。あの人達は誰なんだ。それに、幻魔って何なんだ。あの少女は誰なんだ……何で何も分からないんだよ! おとぎ話の話だろう!?」

 自分が情けなくなって等々苛立ち始めた、確かに今目の前で行われた出来事が理解出来ない不可解な感情と怒りの感情は有る意味仕方のない物だとしてもなぜここまで分からない事だらけなのかと言う事にレイは怒り浸透していた。

「貴方が悪い訳じゃない」
「誰だ!」

 突然暗闇の世界で声が聞こえた、その声に反射的に反応したレイは辺りを見回す。気付けば自分の身体が元の大きさに戻っている事を知る。

「今のは、星の記憶」
「メル?」

 レイは聞き覚えのある声だという事に気が付いた、そしてその声の主であろう名前を口にする。暫くすると暗闇の世界で一つの光が生まれた。
 その光にてらされるかのように一人の少女、メルが立っていた。

「貴方は、誰にも止められない運命を背負って生まれた。貴方のレールは、もう誰にも変える事は出来ない」
「メル、君何を言って――」
「私はただの番人に過ぎない、私の役目は貴方を扉まで誘導する事なの。だから、扉は貴方が開けて」
「……メル?」

 レイはメルが何を言っているのかが全く理解出来なかった、勿論メルが嘘を言っているようには見えない。ただその話は信じがたい内容ばかりであった。

「私はカギではないの、カギは……既に貴方が持っています」
「カギ、運命、番人、扉。僕には何のことだか全く理解出来ないよ!」
「今は、それで良いのよ。その内分かる事だから」

 メルが微笑むとレイは何も言えなくなってしまった、そしてその言葉に先ほどの少女の顔が横切った。

「メル、君は何者なんだ?」

 メルは笑顔でそう言うと先ほどの少女のようにゆっくりと消えていく。そしてすべが消えた所で暗い空間が真っ白に明るくなった。