「勿論、条件付きだ。俺が勝ったら用件を話す。そしてお前を連れ戻す」
「もしも、俺が勝ったら?」
「無理やり連れて帰る!」
「条件になってねぇだろ!」

 ギズーは左手で剣を抜き逆手のままアデルへと突っ込んできた、アデルは両手の剣を鞘にしまって一つ幻聖石を取り出す。

「余裕かましてんじゃねぇ!」
「悪いが、俺も切羽詰まってるもんでね。本気でいかせてもらう!」

 幻聖石が光を放った瞬間振り下ろされたギズーの剣を何か鋼のようなモノで受け止め、ガキンと刃がぶつかる音がした。

「何!?」
「カルナック流抜刀術!」

 一度刀を左手に持つ鞘に納める、納刀された刀を再度右手で勢い良く引き抜き斬撃を飛ばす。一直線に飛ばされた斬撃はギズーの左手に握られているロングソードを弾いた。

「お前、カルナックの者か!」
「聞いてるぜ、弟子にしてもらえなかったらしいじゃねぇか。あの人はそう易々と自分の技を教える人じゃないんでね、俺とあいつだけは事情の事柄から教わったんだ! テメェみたいにただ強くなりたいだけじゃ教えてはくれねぇんだよ!」
「な、何でそのことを!」
「頭の良いお前ならわかんだろ!」

 アデルが刀を右手に構えて再びギズーの方へと攻撃を仕掛ける、横一閃。だがギズーもその年にしてはずば抜けた戦闘能力でアデルの斬撃をかわす。弾かれたロングソードを拾い今度は飛んでくる斬撃を自身の剣で弾き捌く。

「ふざけるな、そのことを知ってるのはカルナックとアリス姉さんとレイだけだ! それ以外のあそこに居た人間は居ない!」
「確かにその時に俺はそこには居なかったさ、二年も前におやっさんの家を出たんだからな! テメェの事を探してる馬鹿な奴が教えてくれたんだよ!」
「テメェ! レイの事を悪く言うな!」
「だったら、俺達と一緒にきやがれ!」
「だから何でそうなるんだって言ってんだよ!」

 二人の会話中、幾度となく剣と剣がぶつかる音が城内を幾度と無く響き渡った。そのたびに火花が散ってまぶしい閃光が放たれる。アデルは涼しい顔をしてどんどんと剣を振り回しながら正確にギズーを追いつめていく。

「レイが危ない、死に掛けてるんだ。医者はお前にしか治せないと言っていた」
「な!?」

 激しい戦闘が静かに終わった、最後にアデルがギズーの剣をはねとばし、その剣がヒュルヒュルと音を立てて地面に突き刺さった。アデルはニヤリと笑顔を作って刃をむき出しにしている剣を鞘に収めて幻聖石へと姿を戻させた。

「何言ってんだよ、お前」
「そのままの意味だ、お前の力が必要だ」

 その場で棒立ちする。突然のことで何を言われてるか頭の中で整理が追い付かない。それでも目の前の男が何を言ってるのか、その真剣な表情に表れている。

「レイに何があった!」

 突然何かがはじけたように怒鳴るギズー、だがアデルはもの凄い形相で睨まれているにもかかわらず眉一つ動かさず動じなかった。

「言え! レイに何があったんだ!」
「瀕死の状態だ、酷い凍傷だ。そしてお前にはもう一人助けて貰う奴が居る、そいつも頼みたい」
「そいつの病状は?」
「よく解らん、医者を待機させているからそいつに聞け」

 周りが少しずつざわめき始めた、その中央でアデルとギズーが立っている。アデルは笑みを浮かべながら、ギズーは戸惑いながら。だが次第にギズーの顔に少しずつだが笑顔が出てきた。

「……あいつは何処にいる?」
「ギ、ギズー様! まさかケルヴィン様を裏切るおつもりですか!?」
「裏切るだ? 笑わせるな、俺は「邪魔していた」だけだ、何時でも出て行く準備は出来ていた。そのきっかけが無かっただけに過ぎない」

 兵士達が全員一歩前に歩み出る、そしてそれぞれ武器を手に持つ。

「ケルヴィン様よりご命令が有りまして、ギズー様をこの城から一歩も外に出すなという事です。申し訳ありませんが私どもと一緒にお部屋にお戻り頂きます!」
「わりぃが急用ができた、テメェらに俺を止められるとも思えねぇがやってみるか?」

 じりじりと兵隊達がギズーとの間を詰めていく、ギズーはにやつきながら右手のホルダーから銃を取り出す。

「お覚悟を!」

 そして一人の兵隊が飛び出した、大柄の巨大な斧を持った兵隊だ。スピードはそれほど早くはないが巨大な斧の破壊力は抜群だった。振りかぶられた斧は城のタイルを粉々に破壊するほどの威力だ。だがギズーが避ける前にその刃は止まった。

「何やってんだお前!」

 アデルが両手の剣で重たい斧を受け止めた。

「俺達だろ? 一人の問題にすんなボケ」

 振り返ってギズーに笑顔で言った、そしてすぐに目の前の大男の方を向いて睨み付ける。次の瞬間斧が地面に落ちる、アデルはふわりとその斧の柄の部分に乗った。

「甘く見ると死ぬぜ筋肉ダルマ!」

 また笑ってグルブエレスを逆手に持ち替えて斧の柄をたたっ斬った。音もなく切れた柄は地面にゴトンと音を立てて落ちる。

「そら次だっ!」

 大きく後ろに振りかぶられたツインシグナルが横一線に筋を残す。それと同時に大男が二つにずれた。
 それを見たギズーが目の前の光景に唖然とする。ほとんど音もなく進められた殺人に目を奪われていた。自分にもこんな戦い方が出来れば、そんな風に考え出した。

「ひぃぃ!」

 アデルはそのまま剣を構えた状態で兵隊達の群れに突っ込んだ、次々に悲鳴と何かが崩れ落ちる音や落ちる音、そして銃声が聞こえる。

「すげぇ」

 ギズーはその場に暫く放心状態で居た、だがじりじりと後ろの方から数人の足音に気付いたギズーは身体の位置を動かさずに後ろの兵隊達を撃ち殺した。

「久々に血が騒ぎ出しやがった、いつかあいつも俺が殺してやりてぇ」