「少年の目からずっと見てきたからわかる、まだこの時代にも私達魔人をあんな目に合わせた帝国がいるのだろう? ならばその帝国に一矢報いたい。私のような存在を二度と産み出さない為にも……必ずあいつらを倒してほしい」

 涙が流れたように見えた、アデルはこれ程までに悔やんでいる厄災の姿を見て痛感する。本当であれば自分のその手で復讐を成し遂げたいだろうと、自分の手で帝国の壊滅を望んでいるのだろうと。だがそれはもう叶う事のない願いである。それを自分たちに託すということがどれほど悔しいか、それを汲んでやることが事が出来ない自分に腹が立つ。何より、炎の厄災について本当の事を知ってしまったアデルにとって。自分がもしも同じ立場であったらと考えると、悔しくてたまらないだろう。なんと無念なことだろうと。

「イゴール、お前」
「私に成り代わり、君達に託したい。我が同胞の無念を君達に」

 アデルは今一度握り拳を強く握った、目の前の悲惨な運命を辿った魔人との約束。それを引き受ける覚悟と、これより先に起こる自分達の戒めと一緒に。

「レイ君、君には迷惑をかけてしまったな。我等が最後の同胞、ほんの僅かな間だったが私はもう一度同胞と出会えたことに感謝している。こんな事になってしまって申し訳ない、許してほしいとは思ってないが」

 アデルの後ろで事の成り行きを見守っていたレイに突如として声がかかる、厄災は変わることのない表情ではあったがどこか悲しそうな表情にも見えていた。

「君にも聞き入れてほしい、私が引き起こした厄災ではあるが――我等を苦しめてきた帝国に報いを、我等が同胞に救いを、どうか頼みます」

 それに対してレイは何も言わなかった、頷きもせず目を離すこともせず、口を開くこともせずただひたすら厄災を見つめていた。そしてアデルが腰から剣を引き抜き逆光剣を打つ体制へと移行する。