魔族たちは格別人間に怯える様子はなかったという。むしろ恐れているのは自分たちが過去に作ってしまった魔人の存在であった。魔族に元々感情意識は少なく、人間と配合して生まれた魔人は人間の感情を受け継いで生まれてくる。その結果引き起ったのが最悪の厄災だった。
 話を戻そう、カルナックはこの結果を見て一つの決断をする。それを告げるのはもう少し先になるだろう。アデルが無事にレイを救出し、炎の厄災を消し去り無事に帰ってきた時。FOS軍は知ることになる。



 あれから数分、レイの深層意識の中で彼らは最後の作業へと取り掛かる準備を始めた。厄災をレイの中から消し去ることだ。だがアデルは悩んでいた。

「イゴール、最後に何か言い残すことはないか?」

 すぐれない面持ちで厄災にアデルが尋ねる、その声にゆっくりと振り向き裂けた口が動く。

「私は、またあの暗くて何もない空間に戻るのか」

 先程までの威勢が完全に消えていた、自分が犯した事への後悔に押し潰されそうになりながらそう答える。アデルはゆっくりと首を横に振って。

「分からねぇ、お前がどこに戻るのかなんて俺には予想も出来ねぇ。わりぃな」
「そうか。いや、謝ることなどないさアデル君。これより続く虚無は私が犯した罪への贖罪なのだろう。私達魔人に手を差し伸べてくれた人々を恨み、焼き払い、生き残っていた同胞まで手を掛けてしまった私自身の罪だ」

 落ち込んでいるだろう、だが決して悟られまいと少しでも明るく振舞おうとしている。それが痛々しく見える、本当なら泣き出したいところなのだろうとアデルが察する。

「言い残すことがあるとすれば、一つだけ願いを聞いてもらえないだろうか?」

 草原に穏やかな風が一つ吹いた、厄災の後ろの方から吹く風にアデル達は向かい風として受け止める。少しの沈黙がその場を流れ、ゆっくりと厄災は口を動かした。