アデルが正気に戻ったレイを見て一安心する、ほっと胸を下すと首を傾げて後ろに向けて親指を突き立てる。そこには厄災が立っている。相変わらず遠くの一点を見つめて。

「お前はあいつに洗脳されていた、それを俺が解除してあいつの事もどうにか大人しくさせたんだ。もう悪いことはしねぇだろうよ」
「そっか。いや、助かったよアデル」

 レイが素直に感謝を述べている横で炎帝はため息をつく、ゆっくりと小さなレイを下すと手をつないでアデル達の元へと歩み寄る。

「何が解除したじゃ、お主はただ思いっきり殴っただけじゃないか」

 炎帝が渋い顔をして話しかける、それを聞いたアデルは気分を悪くしてムッとにらみつける。

「この方は?」
「炎のエレメント、炎帝ヴォルカニックじゃ。お主とは本来なら相容れぬ存在じゃよ、今はアデルの深層意識とリンクしているからこそこうして会話することもできるがの」

 そう、本来であればレイに炎のエレメントに対する適応力がない為こうして会話することも姿を見ることもできない。だが存在だけは感じることはできる。

「そうですか、お手数をお掛けしましたご老人。それと――」

 炎帝と手を繋いでいる小さな子供に目を向ける、すると小さなレイは肩をビクッと震わせ炎帝の後ろへと隠れてしまった。

「この子は、僕?」
「ケルミナ襲撃の時のお前だ。自分でも無意識のうちにあの記憶から隔離しちまったんだろう」
「あの記憶?」

 レイが首を傾げた、それにアデルは驚く様子もなく何かを悟ったような表情をした。あの残虐な記憶を思い出さないように記憶だけを分離したのだろう。だが同時に小さなレイにアデルは複雑な表情を向けた。

「アデル?」
「いや、大丈夫だ。なぁちびっ子」

 アデルがゆっくりと足を曲げて小さなレイと同じ目線に顔を落として複雑な表情を今まで誰も見た事のないような優しい微笑みを見せた。

「大変だったな、俺の親友を守ってくれてたんだな。ありがとう」

 そう言って頭に右手を乗せ撫でた。思えばこの世界にダイブしてきた、レイを見つけ声をかけた時もこの小さなレイが本人を庇う様にアデルの注意を引いていた。この子は自分だけ辛い思いを、あの悲惨な思い出を何度も何度も繰り返し見続けてきた。その記憶を本人に悟られないように、記憶が漏れ出さないように。

「辛かったな」

 ゆっくりと小さなレイを引き寄せて抱きしめた。当時の年齢でいえば七歳、そんな小さな子供が自分の将来の事を考え行った小さな行動。だがそれは大きな勇気でもあった。抱きしめられた小さなレイはその言葉に目から大きな、大粒の涙を零した。