人生は一冊の本だ。
幾憶の星が、幾憶の命が、幾憶の思いがそれぞれに本を持ち歩いている。
あなたが愛する人、あなたが知っている人、希望に満ちた聖人や罪人、人類の歴史における全ての人々が――一つの物語を抱えて生きている。
それは今まで生きてきた過去の記載であり、この瞬間も何を体験したのか、何を思ったのか一文字、また一文字と書かれていく。
次のページを見ることはできない。未来は空白のページだ。
何が起きるのか分からない、先走って読むことも出来ない。
故に空白だ。
同時に、現在のページはいとも簡単になくなってしまう。完成された本も何時かは記憶から消えていくのと同意であり、歴史はあっけなく崩壊する。
人類が積み上げてきた過去も簡単に崩壊し、文明は幾度となく滅んでいく。
今を生きるこの時代も、この文明も、過去に起きた崩壊の様にあっけなく終わる物だと――それが早いか遅いか、自然災害か人的災害か。それとも――。
それが何時から始まったのか、今となってはもう覚えていない。
事の始まりなんて、大体いつも曖昧だ。
劇的な変化を起こすも、数ヵ月経てばそれが日常へと変わる。数年もすれば見慣れた景色へと変わる。
だからこそ誰の目にもこう映っていたはずだ、そう見えていたんだ。
この星はもう駄目だと――。
広大な宇宙の中から見ればわずかな点にしか見えないだろうその地球。
生命の楽園、奇跡の星、謂れはさまざまでその数だけ思想は存在していた。日常は一瞬にして崩壊し、現状は惨状へと姿を変えていた。
故に、彼らは逃げた、飛び出すように、捨てるように。
それは間違ってはない、誰の目にもそれしか道は無いと思われた。
そう、彼女はこの星に残らなくちゃいけない、戦わなければならない。愛する人と交わした約束を守る為に、愛しい人が逃げ切れるように。
成層圏を超えただろうロケットを見上げ、胸元から一枚の写真を取り出して涙する。二度と会うことが出来ない、二度と抱くことが許されない我が子を思い感情が溢れる。
安全なところまで逃げれただろうか?
泣き虫で、臆病者で、それでいて何処か正義感が強かった愛しい人。
全人類の為――彼女はそんなことを考えてはいなかった。人一人が守れるのは両手に収まる範囲位しかないのだ。だからこそ彼女は愛しい人を選んだ。未来を託すように彼女は選択した。
「****、準備はいい?」
「――うん、もう大丈夫」
大地が一度大きく揺れた、それが星の最後の息吹だ。
間も無く活動を停止するだろう星が最後に大きく叫んだ。
その内自転も止まる。まだ死にたくないって。きっとそうに違いない。
彼女はそんな事を考えながら目の前の仲間達の元へと足を進める、きっとこれが彼女達の最後でもある。目の前に広がる荒廃した街、高く聳え立っていたビルは倒壊しアスファルトは原型を留めていない。まるで予言者の言う世紀末そのものだ。
そう、この状況は昔の預言者が伝えた世界なんかよりもっと酷いだろう。
人々は、これが夢だったらって何度思ったことだろう。
現実は酷く厳しい。
「みんな――」
彼女を中心に両サイドへ三人ずつ、計七名。人類最後の希望と言われた彼女達七人。
最後まで抗うと約束した、例え一人になっても……逃げた人達への時間稼ぎだとしても。目の前の化け物を一秒でも長くこの星に留める為に。
彼女達は理解していた、決して勝てる相手では無い事を。
彼女達は理解していた、ここが自分達の墓場であることを。
彼女達は理解していた。
「ありがとう――」
そして、再び大地が大きく揺れた。