夕方頃から振り始めた雨は、次第に強さを増して雷雨へと変わってきた。
時折土の匂いを部屋に運んでは消え、また少しひんやりとした北風が部屋の中を通り抜ける。
タバコの匂いを書き消すほど強い土の香りは高校時代、部活の帰り道を思い出させてくれる。
 記憶として新しいのは何時もの下校メンバーと一緒に坂道を自転車で走っている時に振り出した夕立、季節柄Yシャツのみの僕達は雨に濡れると透けて肌が少しだけ浮かび上がる。当時はまったく気にしなかった事でも今となっては到底出来る事じゃない。
 同じくして古い記憶、僕と帰り道が同じの女子が二人、一列に並んで走っていた。既に三人とも程よく濡れていてシャツが透けて見えた。

「ん……」

 ふと激しく振りだした雨で俯いていた顔を上げるとそこにはブラウスから透けて白い下着のようなものが見えた。当時片思いだった人の下着が確かに見えた。

「やば……」

 咄嗟に速度を上げてその子の前に出る、追い抜かれた子は何で抜かれたのかと不思議に

「皐月~、空力抵抗とかそんなの無いんだから。ましてや前に出たところで私に掛かる雨も変わらないよ~」

 そんな事を言って居た。

「いや、前に出たのは……」

 そこで言葉に詰まった、素直に言えるわけが無いその後に続く台詞。ましてや同じ学校の同じ部活の片思いの女性に対して……いえるはずが無い。下着が透けて見えるぞなんて。

「何ー? よく聞こえない」
「何でも無い、雨も強くなってきたし早い所帰ろうか」
「ふふふ、皐月! 良いもの見たね!」

 ようやく気が付いたのか、一番後ろを走っていた女子がニヤニヤと笑いながらそんな野次を飛ばしてきたのを覚えてる。少しこわばった顔で後ろを振りかえり「それ以上言うな!」と胸の中で叫んだ。




「おや?」

 そんな事を思い出しているとき携帯電話が鳴った、ディスプレイを見ると懐かしい人の名前が出ていた。野次を飛ばしてきた当時の女の子だった。

「もしもし?」
「あ、皐月? 久し振り~、元気にしてた?」
「元気じゃなかったら電話に出ない、どうした?」

 ちょっと懐かしい声に戸惑いながら電話腰に笑った、右手でタバコを取り出して咥える。左手で電話を持っているので再度右手でライターを取り出して火をつける。