夕方から鳴き始めた蛙の鳴き声に耳を傾けながら夕焼けに照らされる木々を見つめ、そっと空を仰ぐ。
 昔はあれほど耳障りだったこの六月の音に耳を傾けながら夕焼けを見るのが今では日課になっていた、都会から久し振りに帰ってくる仲間達の事を思い浮かべながら外をブラブラと散歩する。時折土の香りを含んだ突風が吹く。生臭くて生暖かい、そんな風だった。口に加えたタバコがジジっと音を立てて激しく燃える、それを横目で見ながら一度深く煙を吸い込んだ。
 あれから五年、何人もこの地元を離れ遠くへと出稼ぎに行ってしまった。そして今日久し振りに皆一斉に帰ってくるとの報告を受け、内心わくわくしながらこうして駅が見える田んぼ道にたたずんでいる。髪の毛がさわさわと風に撫でられると同時に田んぼの苗木達をも揺らす。まるで風の姿が見えるような、そんな風景だった。
 携帯が一度ブルブルと振るえた。ポケットから取り出して画面を見るとメールが一通。どうやら後数分でこちらに到着するようだ。
 既に皆合流し、今までの事を話しながらこちらに向かっているのだろう。五年間と言う空白の時間、その空白の時間を皆は知らない。地元を離れ皆がどうしていたのか、地元を離れここがどう変わったのか。お互い知らない事は多い。

 遠くからガタンガタンゴトン、ガタンガタンゴトンと聞きなれた列車の音が聞こえる。もう少しであいつらに合える。そう考えると速く合いたくてしょうがなくなる。
今日から三日間、彼らは僕の部屋に泊まりこみで遊ぶと言う。僕も仕事を休みにしてもらい彼らと同じ時間を共有する。そして昔と同じように語り、騒ぎ、ゆっくりと時間を過ごす。当たり前のようで常に出来る事じゃない事をやる。それが楽しみで仕方がない事。

「もしもし」

 もう一度携帯電話が揺れた、今度は電話だった。通話ボタンを押して携帯電話を耳に当てる。

「あぁ――久し振り」

 聞きなれたはずの声がとても懐かしく聞こえる。後ろの方にやはり聞きなれた声が数人。今か今かと騒いでいる様子だった。

「うん――そう、何時もの場所」

 高校時代、帰り際にいつも待ち合わせする場所がここだった。駅が見えて回りは田んぼが一面に広がり、その奥には山が見える。十字路になっていて両脇には用水路がある。そんな場所。
 近くに民家やコンビニ、自動販売機すらないのどかな田舎が僕の住んでいる所。観光地のはずなのにとても静かで住みやすい場所。車がなければ移動すら困難なこの地元を選び、僕は残った。

「あぁ、見えたよ。皆久しいな。はっはっは、俺はいつもどおりさ」

 直ぐそこに仲間達が見える、仲間達は僕に向かって一斉に走り出した。ツンツン頭で背の低い親友、少し更けていて僕にタバコを教えてくれた親友、相変わらず日焼けしたような色の親友。その他諸々。皆が僕の名前を呼んで走ってくる、その姿を見て右手で加えていたタバコを捨ててゆっくりと仲間達の元へと足を進める。

「おかえり」

そう、一言呟いて夕日を背中に浴びていた。