誰もが体験する一年に一度の別れと出会いの季節。
　今年もそんな暖かい季節がやってきた、友達の楽しそうな姿や悲しそうな姿。一年に一度と言わずに何度でも見れるそんな表情もこの季節だけは特別だった。

「タバコ？　体に悪いよ？」

　学生時代に最後に交わした言葉。

「まぁ、一本吸えよ。タバコを吸うのも人生の一つだ」

　学生時代に始めて吸ったタバコの味。

「明日も晴れるな、そしてきっと寒い」

　学生時代に交わした夜の約束。

「じゃぁ、また会おうな。何年か後にまたここで」

　学生時代に約束した仲間達との約束。



　今皆何してるんだろう。
楽しかった日々、辛かった日々、一緒に笑った日々、泣いた日々。
　まるで一つのアルバムでも見ているようなそんな気分にさせてくれる、体を窓から乗り出して春の風に酔い髪の毛を優しく撫でる。
　咥えているタバコが風に煽られジジっと音を立てて燃える、それがとても心地よくて気持ち良かった。本当に楽しかったあの時、もちろん今も楽しい。
　初めて交わした言葉は何時でも覚えていて、最近約束した事は多々忘れる。こんな物だろうと笑い隣においてある珈琲に手を伸ばす。
　カップに口を付けてゆっくりと飲む、飲み終えたらまた隣に置いてタバコを口に運ぶ。部屋の中ではお気に入りの音楽が流れてゆっくりとした時間を刻む。
　一度突風が吹いた、この時期にしては珍しい風が吹いて何年も前の事を思い出させる。雨が降っていたせいもありアスファルトが濡れた匂いがする。

「あの時も、こんな感じだったな」

　そう言うと一度笑った、まだ水を張ったばかりの田んぼを眺めてゆっくりと目線をそらへと移す。雲ひとつ無い晴天、丁度良い気温に僅かだが眠気を誘う。

「まぁ、いい」

　タバコを消して窓を閉めると同時に携帯のアラームが鳴り響く、時計を見ると仕事に行く時間だと気づく。

「うし、行くか」

　クローゼットから春用のジャケットを取り出してそれを羽織る、黒いバッグを肩に担いで部屋を後にした。