「なぁ、何処に行くんだ?」

 友人を乗せて車を走らせる、彼是三十分は走っているだろうか。目的地も告げずひたすらと田舎の道を走り、友人は助手席で外の風景を見ながらタバコを吸って居た。

「決めてないよ、ちょっとドライブに行きたかっただけだ」
「……ガソリン代、お前持ちな」

 そんな会話を続けて僕はハンドルを握る、目の前をさえぎる山を超えればそこは海に繋がる国道。もう何度走った道か分からない。

「何があった?」

 友人がこうして僕とドライブに出かけるときは必ず何か嫌な事が有った次の日だった。何度も続けて何度も愚痴を聞いて、何度もそれに同意して来た。

「やっぱり分かる?」
「そりゃぁ……何年の付き合いだって思ってるんだよ」

 苦笑いしながら顔をこっちに向けた、一つため息をついてタバコを一本貰った。

「仕事がさ、続かないんだ」
「またか」
「いや、そりゃぁ……俺が飽き性ってのもあるだろうけど今度のは俺悪くないんだぜ?」
「前にも聞いたなその台詞」

 タバコを咥えながらゆっくりとシフトダウンさせる、ヒールアンドトゥで回転数を落し下りのカーブを曲がった。

「上司がいけないんだ上司が、あーでもないこうでもないっていっつも引切り無しに怒鳴りやがってさ」
「そんで?」
「俺は良いと思ってやった事が裏目に出たらしく、上司から怒られたのよ」
「続けて?」
「あまりにもくどいから、止めてきてやった」

 信号が見えてきた、黄色から赤に変わろうとしていたので車をゆっくりとスピードを落し、最後には止まった。

「お前、わかってねぇよ」
「あ?」

 暫くの沈黙が流れ、信号が青に変わったのを確認してギアを一速に入れる。

「怒られるってことはさ、お前の事ちゃんと見てんだよ」
「みてねぇよ、どうせ俺の事なんかどうでもいいんだろうし」

 長く続く直線の道を少しスピードを上げて走らせる、太陽は丁度真上に昇り寒いこの世界を少しだけ暖めてくれる。

「俺がお前の事怒るの何回目だっけか」
「もう十から先は数えてない」
「同じことだよ」

 右手でタバコを口から話して煙を吐いた、白い煙は少しだけ開いた窓から外に逃げる。そしてまたタバコを口に戻して左手でハンドルを握り、右手は窓の付け根にひじを添えて顔を支える。