「それ金木犀の香水?好きな匂い」
教室で友達に言っていたその言葉。

好きな人の好きな物は好きでいたいから。
「私金木犀の香りが好きなんだ」なんてその日から言うようになった。
シャンプーだって香水だってその香りに変えたりもした。
それでも振り向いてくれなかった。
私はわざとらしく「金木犀が好きだ」と言って見せたのに、「そうなんだ」と言うだけで、「僕も」の一言すら言ってくれなかった。私に興味なんてなかったんだろうな。そう落ち込んでいた時今の彼氏が告白してくれた。
「好きだよ。落ち込んでるの?俺が慰めてあげるから俺と付き合ってよ」
本当は上からな態度が少し苦手だったけど、君を諦めたくて付き合うことにした。

今の彼氏にはその匂い合ってないよなんて言われたこともあった、
香りで心臓が締め付けられることもある、
けれど残っていたシャンプーと香水を捨てることは出来なかった。

付き合い始めてからもう1ヶ月以上が経った。
1週間ほど前彼氏が幼なじみに最近彼氏が出来たからダブルデートがしたいと言い出した。
断る理由はなかったので「良いよ」と返事をした。


「びっくりしちゃった。恋人いたんだね」
そう知らなかった振りをして。
「…噂には聞いてたけどそっちも付き合ってたんだね」
私の知らないところでほんの少しでも私のことを考えてくれたことがただ私は嬉しかった。
でももう今はその気持ちを外に出してはいけない。
「うん。このスカートも彼氏に選んでもらったんだ」貴方に見てもらいたくて春に買ったスカートをそう言いながらヒラヒラと揺らす。
「…そうなんだ」
出てきた言葉はあの時と同じ。
やっぱり私に興味なんてなかったんだね。

金木犀の香りがするその人と交わした会話はぎゅっと心臓を苦しめた。

次もきっと金木犀を買おう。