「―—ありがとうございました」
あれからいろいろあって、急ぐように決めた新しいアパートの一室。今日は引っ越し当日だった。引っ越しの業者さんにお礼を言って、私はリビングに戻る。
「まりかー、カフェオレと紅茶、どっちがいい?」
「あー、じゃあ紅茶」
引っ越し当日だから、と荷物整理の手伝いに友人の茉莉香が来てくれていた。ちょうど全部終わったので、お茶でもして、色々話そうと思う。
紅茶とカフェオレ、後は買っていた適当なお菓子をお盆に乗せて、新しいリビングに置いた机に持っていく。
この机も、いい加減買い換えないとなぁ。いくら家を変えても、中身のものが変わっていないので、思い出は色濃く残っていた。
「あ、そういえば牧野くん、大学やめたって知ってた?」
「―—…へっ?」
全く、知らなかった。颯が大学をやめたなんて。てっきりずっと夢だった小学校の教師になるために専念したくて別れたのかと思っていたから。っていけない、この話はこの間最後にしたんだった。
「あれ、知らない?結衣莉なら知ってると思ってた。なんか、癌の末期らしいよ」
「…!?」
友人の言葉に私は衝撃すぎて、マグカップを落とした。中のカフェオレが机の上に広がる。
「うわっ、ちょ、何やってんの」
「……あ、ごめん」
私は頭の中で考えながらカフェオレを拭く。もしかして、颯は―—。