「……」
俺は一通の手紙を封筒に入れる。封筒に思い出の詰まったあの家の住所と結衣莉の名前を書こうとしたところで手を止めた。
……今更、遅い、か。こんな風に今更全てを話したところで、結衣莉はそれを受け入れるだろうか。
結衣莉からの連絡はない。後悔、してるかな。結衣莉のそばにずっといたのは俺だし、なんとなく、そんな気がした。結衣莉の悪いところは一つのことを考え出したらそれしか考えられなくなるところだ。でもそれ以上にいいところも知ってる。何にも真っ直ぐで、どこまでも優しくなれるところ。そんな結衣莉にちゃんとホントのことを話さなかったことを少なくとも俺は死ぬほど後悔している。なんであの時、にもっと誠実になって、全てを伝えなかったのかな。俺じゃない俺を見て、苦しむ結衣莉の顔を見たくなかった。でも、結衣莉ならきっと受け入れてくれたと、今なら思える。
……いや、それだけじゃ、ない。俺はきっと俺自身と向き合う時間が欲しかったんだと思う。
『もって、後九カ月ほどかと……。おそらく、来年の春を迎えられる可能性はほぼないです』
俺があの家を出ていく一週間前に言われた言葉。俺はこの残された時間と向き合いたかったんだ。
だから、ごめん、ありがとう。ばいばい。俺はさっき書いた手紙をごみ箱に捨てた。これでホントに、君とはお別れだ―—。