起き上がると私はキッチンに行き、作ったカフェオレをベランダで飲みながらスマホを確認する。
……やっぱり。颯からの「返信」はそこで止まっていた。
半年前の『ごめん』。これが颯からの最後の言葉だった。
突然、家に帰ってこなくなって、「どこ?」って送ったら、今までのどんなメールの返信よりも早く帰ってきた、『ごめん』
「……」
この言葉の真意はつかめないけど、多分、別れようってことだと思う。
……あんなに一緒にいたのに。今でこそ懐かしいけど、颯の笑顔を思い出すと涙が止まらなかった。キッチンの食器棚の奥で置き去られたみたいにずっと放ってあるマグカップが時の流れを思わせた。
隣に置いてある植物も、颯と一緒に育てていたものだ。あの日から時が止まったように成長も止まり、今では枯れ果ててしまった。なんだか、私みたいだ。
部屋の真ん中に置いてあるテーブルも、よく颯が突っ伏してそのまま寝てたな。あのソファだって、一緒に夜な夜な座って二人で映画を見た。さっき寝てたベッドも一人で寝るには大きすぎる。いつもなんだか、左隣が寂しい。
「……」
ここに溢れているのは、颯との幸せの残骸だった。もう、消え去ったっていうのに。きっと、忘れられないのは、私だけだ―—。