「―—いらっしゃいませ」
今、私は自分と向き合うために、いろいろとリセットしようとしていた。新しい家に引っ越して、家具も大体一式買い換えて、バイトの日数も増やした。忙しさを感じていれば、思い出さなくて済む。
「ご注文はどうなさいますか?」
「あ、じゃあ、コーヒーで」
「かしこまりました、あちらの席へどうぞ」
今日もバイトを淡々とこなしていた。そろそろ上がりかな。
その後も残り十五分、きっちり働き、バイトが終わると、店長に呼び出された。
「倉木さんにお客さんが来てるけど、知ってる?あの人」
「えっ?私に?」
店長が指さした方向を見ると、そこには見覚えのある――。
「颯の、お母さん……」
「あ、知ってる?なんか、大事な話があるみたいだよ」
私は荷物をまとめ、仕事から上がると、颯のお母さんの方へ行った。
「あ、結衣莉ちゃん?」
私が近づくと颯のお母さんは気づいたみたいで、私の名前を呼んだ。
「はい、倉木です。あの、話っていうのは?」
颯のお母さんの目が潤んでいるのは気のせいだろうか。冬だというのに冷や汗が背を伝う。
「颯が…さっき、病院で、亡くなった―——」
「……え」
颯のお母さんは我慢しきれないとばかりに涙を零し、その場にしゃがみこんだ。
「あ、あの、ちょっと場所を変えて話しましょうか」
丁度その日は車で来ていたので、颯が好きだった人気のカフェオレを買って車の中で話す。