「……」

「……」

俺は今りっちゃんこと”美鈴凛津”と2人で外を歩いている。

「……」

「……」

家を出てから15分近く経つのにも関わらず、お互い無言で黙々と歩き続けていた。

「あのさ…」

「なに?…」

さっきから俺が話しかけようとしてもずっとこんな感じだ。

俺が一体何をしたんだってんだ!

心当たりは……まぁ、なくも無いけど。

でもさっ!俺もワザとやったわけじゃないし!それに、すごい攻撃されたし……。

おあいこだと思うんだどな。

いや、でもやっぱり、謝らないとダメだよな〜。

よし!

「すまなかった。その、お前の胸……急に触って……。マジで俺最低だよな。でもさ、本当にワザとじゃなかったんだ!! 信じてくれ!!」

俺は深々と凛津に向かって頭を下げる。

すると、凛津は急に頭を下げた俺の前で手をワナワナさせながら 

「えっ? ちょっと! 頭あげてよ! 私、もうそのこと気にしてないし……それに……」

「それに?」

「別にワザとやったなんて思ってなかったし……。私こそ、急にビンタしたりしてごめん……。」

凛津も俺と同じように頭を下げた。

「あ、あぁ。俺は大丈夫だ。から心配するな。ほら凛津も頭あげて」

「うん……」

「……」

それから、また2人の間に沈黙が訪れた。

でも、さっきとは違って、刺々しいものではなく気恥ずかしいような、もどかしいようなそんな沈黙だった。  

「さっ、さぁ行くか!!」

「そっ、そうね!」

沈黙を破るように俺が声を出し、また2人で歩き出そうとしたその時に

「そういや、なんでずっと俺に付いてきてんの?」

俺は凛津に、この散歩を始めてからずっと聞きたかった事を、なんとは無しに問うた。

そう。

今から少し前、俺が昼飯を食ってから散歩でもしようと外に出た時に、凛津も 

「私もちょっと用事あるから」

と言って同じタイミングで外に出てきたのだ。

そこまでならまだわかる。

でも、さっきからずっと俺の後ろについてきているのだ。 

「私もこっち方面に用事あるの!」 

凛津はそう言いながらも再び俺についてくるけれど、本当に用事なんてあるのだろうか?

この先に行っても、レタス農家の田中さんの畑しかないぞ?

「まぁ、いいや。そういえば凛津はいつからおばあちゃん家にいるんだ?」

「2日前くらいかな」

「へぇ〜。いつまでいるつもりなんだ?」

「2週間くらいかな」

「じゃあ俺と同じくらいだな」

「そうね」

会話が続かない。

というか向こうが続ける気がないと言ったほうがいい感じだ。 

まるで俺を避けてるような……。

さっき仲直りしたんじゃないのかよ?

女の子は本当によく分からん……。

「あのさ、なんか凛津まだ怒ってる?」

「別に怒ってないよ……。久しぶりにあったから……その……って! 私に恥ずかしい事言わせないでよっ!」

「えぇっ?!」

俺はただ怒ってないか聞いただけなのに……なんて理不尽なんだ。 

この話題は地雷が多そうだし、後にしよう。

「それにしても凛津、なんかすごい変わったな。さっき会った時なんて誰なのか分からなかったぞ。」


凛津はピクっとしてから

「別に。私は変わってないと思うけどあんたはどう変わったと思うの?」

「うーん。元々可愛かったけどさらに可愛くなった」

ピクピクっ

「本当にアイドルかと思うくらい可愛いと思う」

ピクピクっ

「それになんか胸も……痛っ!」

「そっ、それ以上言ったら殺すから!」 

さっきまで黙って聞いていた凛津は真っ赤な顔でそう言って突然、俺の腕の皮膚をつねりあげた。

「わかった!! わかったから! 離してくれ!! 冗談だよ!!」 

「本当にわかってるんでしょうね?!」

「あぁ!! もう二度と変なこと言わない!!」

するとようやく凛津は俺の腕から手を離した。

「ふぅー、助かった」

俺が自分の腕をさすっていると、

「……それで? ……胸がどうとかいうのは冗談として、その……可愛いって。それも冗談だったの?」

凛津はとても大事な事を聞くように俺に問いかけてきた。

「ん? いや、可愛いのは本当だろ? 周りの人とかにもよく言われるんじゃ無いのか?」

「……他の人に可愛い……とか、言われるのそんなに気にした事ないし……。それに、今聞いてるのは……優太が……どう思うか……っていうこと……だし」

凛津は真っ赤な顔でモジモジしながらも俺を上目遣いに見ながらそう言ってくる。

うぅっ、ヤバい。

このシチュエーション、まるで俺告られてるみたいじゃん!

「で……どう思う?」

俺がそんな事を考えていたら追い討ちのように、凛津が顔を近づけて問うてくる。

「かっ……かわいい……と思うぞ」

俺はバクバクとなる心臓のの鼓動を無理やり落ち着かせるように、そう言う。

すろと凛津は一瞬俯いたかと思うと……

「じゃ、じゃあさっ! もし、もし私が優太のこと……好き……って言ったら……さ……どうする?」

凛津は恥じらいながらも精一杯の努力で俺の目をまっすぐと見ながら聞いてくる。

心臓がドクンドクンと高鳴る。 

「……それは……」

俺がそこまで言いかけると……

「やっ、やっぱり答えなくて良いよ!! 急に変な事言ってごめん」

凛津はそう言うと、再び歩き始めた。

さっきのは何だったんだ……。

俺はまだ高鳴ったままの心臓に手を当てて、1人呟いた。

それから数十分散歩してからの帰り道、俺はもう一つ気になっていた事を聞くことにした。


「あのさ……」

「なっ、なにっ?」

凛津は急に話しかけられたからか、ビクッとしてから俺の話に耳を傾ける。


「有里姉ちゃん一緒じゃないの?」

「……」

「どうした?」

「知らない」

凛津は急に黙ったかと思うと、その一言だけを発して歩くペースを早めた。

「ちょっ、ちょっと! 急にどうしたんだよ?」

「……」

凛津は俺の声も聞かぬまま、そのまま黙って先に歩き続ける。

さっきまでのやりとりが嘘のようだった。

「知らないって有里姉ちゃんだぞ? 仲良かっただろ?」

俺はめげずに何度も話しかけたけれど、凛津は黙ったままだった。

そして、結局そのまま家まで着いてしまい……今は、寝支度を全て終わらせて寝るところだった。

結局あの後、凛津とは一度も話せていない。

夕飯の最中も一度も目を合わせてくれなかったし。

「はぁ〜」

俺は思わずため息をつく。

さっきまではあんなに仲良く出来てたのにな〜。

有里姉ちゃんのことを話題に出した途端にこうなった。
2人の間に何かあったのだろうか?

ベッドの中でそんな事を考えていたら、いつの間にか俺の意識は途絶え……そのまま深い深い眠りの中へと落ちていった。