「ほら、この前話した父に当たる人、覚えてる?実はクズ化するまで有名なオーケストラでチェロやってたんだよ。その頃は輝いて見えた。今は正反対だけど。」
「なるほど。あのさ、弦楽器部入らない?チェロとかは貸せるから、弾き方忘れてたら1から教えるし。考えてくれるだけでもいいから。」
俺は頭を大回転させて考えた。が、返答に困ったので「ちょっと時間くれない?」とお願いした。
「ありがとう。考えてくれるだけでも嬉しいよ」
時計を見たら2時40分を指していた
「ごめん、もう行かなきゃ!」
走って西棟に向かった。ギリギリセーフでなんとか間に合った。
〈危なかった〉そう思いながら授業が始まった。
課題の採点をしていると、机がカタカタと揺れた。誰か消しゴムを使っているのか?と思った瞬間

地面が高波の様に揺れ、椅子から自然に崩れ落ちた。

地震。そう感じた瞬間地面に跪いている状態になり急いで机の下に隠れた。
天板に天井にあった蛍光灯が思いっきり落ちてきた。
避難訓練とは全く違う恐怖に襲われパニック状態になった。
呼吸が荒々しくなり過呼吸と同じような状態に陥った。
いつまで経っても揺れが治る気配はない。訓練では長くても1分と言っていたのに。
後から知ったがこの時は6分間も揺れがあったらしい。しかし1時間とも長い時間と思えた。
やはり海沿いということで津波を想定した訓練は行なっていた。そのおかげで学校の裏にある裏山にスムーズに避難できる、、、と思った。しかし現実はそこまで甘くなくパニック状態に陥った生徒がほとんどで全くスムーズに逃げられなかった。
そのために俺は避難する列の後ろの方で走っていた。ふと後ろを振り返るとどんどん海水が海から引いていく。
津波だ。
逃げろ逃げろ逃げろ。早く早く早く。

山の頂上につき街を見ると津波が港に入り込んでいた。ふと思い出した。海岸が入江だと津波は強さを増して攻めてくることを。波が海に帰っていく。と思った5秒後にもっと大きな波が来る。
それを何回も繰り返す。
呆然と立ちすくんでいるといつのまにか空に紅みがでていた。
教師が「熱中症になるから絶対寝ない!どうせだからみんなでおしゃべりしようよ。」と落ち着いた口調で言うが生徒のパニックは止まるはずない。逆におしゃべりなんてもってのほかだ。
朝になり波が引いてきた。かといって他に行く場所などない。