「そういうことがあったのね。じゃああなたに酒井さんの病状を伝えます。酒井さんは心肺はしっかりと機能しています。しかし意識がない。つまり現在は昏睡状態ということです。いつ目覚めるかはわかりませんが頭部の外傷は浅かったためそこまで長くはないと思います。」
とても安堵した。刺された針がうまく抜かれたような感じ。
酒井が発見され死亡が確認されなかったので俺は瓦礫撤去を休止し体育館の受付係になった。凄惨な現場を見たくなかったのだ。
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それからは酒井が寝ているプレハブの病院に通うようになった。ここは母さんが亡くなった元総合病院の跡地に建設されている。
山木先生が言うには二週間程度で起きると思われるらしい。あれから一・五週間たったが酒井が起きる気配はない。それを確認すると体育館に戻り受付の仕事を再開する。そのようなルーティーンで一日を過ごしていた。
受付の仕事をしていると携帯に一本の電話がかかってきた。液晶には『山木先生』と表示されていた。
「はい。甲斐です。」
「あ、甲斐君。ちょっと言いにくいんだけど」少し絶望を感じた。
「酒井さん、心停止したの。今から緊急手術なんだけど、許可してくれる?」
「なんで俺に聞くんですか。両親とか、いないんですか。」
「酒井さんの両親、連絡取れないの。」あの夢を思い出し肘をぶつけたように小指が痺れた。
「俺は全然構わないんですけど、、一刻を争いますか?」
「うん。じゃあいいってことでいいのかな」
「絶対失敗しないなら、どうぞ」
「医師からみて絶対は言えないけど99%成功するとは言ってあげられる」
「どうぞ。」と自然と口からこぼれた。
                     *
仕事を早上がりしてプレハブの病院に全力疾走した。
「あ、甲斐君」
頼りのない顔をした山木先生が長椅子に座りながら俺を見ていた。
「酒井は、どうっすか」
「うん。たった今手術中。いい感じらしいいけど、、まだわからない。」
「山木先生は医療免許持ってないんすか」
「あ、私は持ってない。看護免許は持ってるけど、手術はできない。」少し申し訳なさがあった。

手術室のライトが消えた。終わったようだ。
自動ドアが開き医師が出てきた。
「成功です。2時間後には覚醒すると思います。」
さっきまで残っていた小指の違和感が完全に消えた。