「あんまり言いたくないんだけど、、酒井さん、連絡が取れないの。」剥き出しになった心に針で刺された気分だった。「多分今もどこかで苦しでいるかも」とも言っていた。
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その日から行方不明者の捜索及び瓦礫の撤去が始まった。これが復興への第一歩だ。
俺たち学生も協力できる生徒からどんどん作業に移っていった。俺もその中の一人だ。ただ酒井を探すだけだと思っていたので瓦礫の撤去はしないと消防に伝えた。
2日ぶりくらいに外をみた。そうすると愕然とした。何もかもが海に引き摺り込まれまれている。残っているのは海から打ち上げられた船や家の残骸。“さすがドス黒い心を持った津波という怪獣”そう思った。
俺は消防から貰った小型ライトを片手に捜索した。まずは半壊した北棟。ここでは普通クラスの生徒が何人も犠牲になった。酒井がその一人ではないことを祈る。
歩けるところから五人程の消防隊員に連れられ北棟に入っていく。遺体のほとんどは既に回収されているので凄惨な現場を見ることはなかった。しかし所々に学生のものだろうか、教科書やペンケースなどが大量に落ちていた。ひどい悪臭がする中ズンズンと入っていく。
そして4階の廊下。半分は外に剥き出している。そこから三の四の教室に入るとそこに倒れている酒井の姿があった。
「大丈夫ですか!」消防隊員が駆け寄り意識確認をする。その光景に俺は唖然とする。心に石を投げつけられた気分だ。
持ってきた担架に酒井を乗せ急いで北棟からでる。命は一秒を争うので当然だ。
医務室に入る前に隊員に止められた。{そこでお待ちください}そう静かに言われ絶望を想定した。   
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医務室からストレッチャーから出てきた。そこで横になっている酒井は目を瞑ったままだった。
「酒井さんとはどのような関係?」山木先生は普通の口調で聞いてきた。
「ざっと言えば命の恩人ですかね。」本当にざっとだ。
「その話詳しく聞かせて。」
この人なら行っても大丈夫そうだ、そう思ったのであの日のことを一言一句細かく伝えた。話が進んでいくにつれ山木先生が相槌を打つ回数がどんどん増えた。