バタンと、何かが倒れたような大きな音と、部員たちの慌ただしい声が扉の向こうで響き始める。ただ事ではない様子に、ボクは持っていた小道具を放り投げ、倉庫を飛び出す。そこでは倒れた沢村に、部員たちが必死に声をかけていた。

「力に自信があるやつは俺と一緒に沢村を保健室へ。手が空いているやつは職員室と保健室の先生に連絡。急げ」

 沢村の足を持ち、学は適切に指示を飛ばす。手伝わなければ。そうは思うものの、足は動こうとはしなかった。

 ボクが彼女をここまで追い詰めたのか。

 過呼吸を繰り返す沢村に、心臓に鋭い痛みが走り始める。お前のせいだと責め立てているように。

 空を仰いでいた沢村が、ふとこちらに視線を向ける。よほど苦しいのだろう。彼女の眼には、薄っすらと水の膜が貼られていた。しかし、それでも彼女は無理して笑い、ボクに告げる。

「だいじょうぶ、かえってくる、おしえてね」

 単語でしか話せないのに何が大丈夫だ。

 そんな怒りが沸々と腹の底から湧き上がる。

胸元をつかみ、少ない酸素を回収しようと、餌を求める魚のように開閉させる口。自分でろくに動くことすら出来ないその様子のどこに、大丈夫な要素があるのだと。

 練習は止めにしよう。

 ボクは胸にそう誓い、右足を一歩踏み出す。

 ……練習を、止めにする? ボクは何を考えているんだ。

 右足を一歩踏み出した状態で、ボクの身体は再び硬直する。遠くでは、学達に連れられた沢村が、体育館を後にしようとしていた。

 練習を止めにする。それが彼女の理想ではないことは、先ほどの言葉で理解出来るはずだ。ならばボクがすることは、彼女の練習を今まで通り支えること。止めるなど言語道断である。

 そう脳は、さっきの誓いを糾弾する。

 ボクは全員の理想だ。アイされるためにはそうでなければならないのだ。だからこそ、この選択が正しい。間違いない。そう理解しているにも関わらず、心は晴れるどころか霧が増すだけだった。

 あんなにも苦しそうな彼女にこれ以上つらいことを強いるつもりか。一刻も早く辞めさせるべきだ。例え彼女の理想でなくても、彼女に嫌われたとしても。人の幸せを願う、それこそがあいと言えるのではないか。

 そんな異論がどこからともなく脳裏に流れ始める。意見が割れた脳内では論争が行われ、さまざまな考えが巡り始める。例えるなら、悪魔と天使が言い合いをしているようだった。それに例えるのなら、異論を唱えだしたのはきっと悪魔の方だろう。誰かの理想である。それは、絶対的な正義なのだから。