美雪の葬式が終わり、夜の帳が降り始めた中、ボクたちは行き先も決めずにぶらついていた。喪失感に襲われるボクらの間に会話はなく、車のエンジン音だけが辺りに響いていた。

「ボクさ、理想のライを卒業するわ」

 そんな沈黙を破るように、ボクは学に宣言する。学は何も言わず、空を眺め続けていた。

「泣き虫で、弱っちくて、頼りない。そんなボクらしく生きていこうと思う。美雪に言われた通りに」

 ボクはその場で足を止め、先を進む彼の背中を呼び止める。ボクの呼び声に足を止めた学は、ゆっくりとこちらへ身体を向けた。彼の顔は、悔しさそうにゆがめられていた。

「そんなボクだけど、友達になってくれますか」

「それでダメって言われたらどうするんだよ」

 学は足を踏み込み、ボクとの距離を徐々に詰める。そしてボクの頭に手を置くと、無造作に頭をなでまわした。

「お前と沢村とで劇の練習をしてたときはすげえ楽しかったからな。あの時のお前が本当のライだってんなら、友達になってやるよ」

 その言葉が嬉しくて、ボクは思わず学の胸に飛び込む。学は鬱陶しい、暑苦しいと文句を吐きながらボクを剥がそうと必死になっていた。ボクは離れるものかと意地を張り、必死に彼の服をつかみ続ける。しかしガタイの良い学の筋力に負け、抵抗は空しく引き剥がされてしまった。

「んじゃ、卒業祝いにファミレスでも行くか」

 学は制服のしわを整えながら、いつもの笑顔でボクに声を掛ける。友人との外出というのは初めての体験に、ボクは元気の良い返事を返しながら、彼の横に並ぶ。

 これから先、これがきっかけで苦しい思いをするかもしれない。虐めだって受けるかもしれない。だけど、ボクが最も恐れていた孤独が今後やってくることはないだろう。学と美雪は、こんなボクを受け入れてくれたのだから。

「美雪! ありがとう!」

 ボクはその場に立ちどまり、大きく息を吸い上げ、天国に居る美雪に届くような大声で叫ぶ。するとボクに倣って、学も大声で叫んだ。

「ありがとな!」

 肩に腕を回し合ったボクたちは、お互いに顔を見合わせ、街のど真ん中で笑いあう。愛されるために理想を演じていたボクは、もう存在しなかった。