迎えた卒業式。式はつつがなく行われ、同級生たちは別れを悲しんでいた。しかしその表情はどこか明るく笑っている。
 
 最後に少しでも一緒にいようと、周りは他愛もない会話をしたり、写真を撮ったりして、多くの生徒が学校に残っている。

 空も多くの生徒に囲まれており、会話をしている。

 舜は自分の卒業アルバムや記念品、卒業証書が入った紙袋と、空に渡すアルバムが入った紙袋を手に、校舎の後ろにある桜の木の下で空を待っていた。

 待つこと数分。リボンとブレザーのボタンが無くなった空がやって来た。

「やー、お待たせ。ちょっと強盗にあってさー」

「うん……大変だったね」

 ボタンは引きちぎられたのだろう。つけられていた糸が残っており、乱雑に取られたことが見て取れる。

「それでそれで! アルバムは⁉」

 空に急かされて舜は紙袋ごと手渡す。
 
 きらきらとした目で紙袋を覗いた空は、見た瞬間に? を浮かべる。

「七瀬君、二つあるよ」

「そうだね。二つ入れたから」

 不思議相する空に、舜は何の不思議もないように言う。

「一つは花月さんの注文で、もう一つは僕からの卒業祝い」

 空はアルバムを取り出して開き、中を見ると、そこには誰も映っていない景色の写真があった。

 桜が入っているのは勿論、季節問わず、町のあらゆる写真がそこにはあった。

「僕ね、花月さんが好きだよ。異性としてね」

 舜の言葉に、空は驚いた声を上げて舜を見る。

「あ、返事はいいよ。伝えないのは後悔すると思ったからだから」

 これからいなくなってしまう彼女に選択を委ねてはいけない。返事がどちらにせよ、それは彼女の足枷となり、心残りになる。だから舜は返事を求めない。もともとこれは、言うだけでいいと思っていた。

「だからね、君を好きな僕からのプレゼントだよ。君から見た景色の写真」

 誰も映ってはいないけれど、それでいい。空が写っていなくとも、その写真は空から見た景色を写真にしたのだ。

 写っていなくとも彼女はそこに居るし、その景色を見ている。この町で、全ての季節に息をしている。

「卒業おめでとう。これからの門出を願ってるよ」

「こっちも、君の門出を願ってるよ。また春に会おうね。一回は来てよ? 約束だからね」

 そうして彼女は僕の見知らぬところで、桜と共に散っていった。

 また来年の春に、アルバムを抱えて会いに行こう。たくさんの旅を、いろんな場所を君は歩いているのだ。