舜は大きく深呼吸をする。緊張で早くなる鼓動を押さえながら、現在の保護者となっている祖父母の家のチャイムを鳴らす。
会うのはいつぶりだろうか。立場的に見捨てると世間体が悪いために引き取ったと考えているので、迷惑をかけないよう、あまり関わらないようにしていた。高校に入ってから一人暮らしを始めたので、何気に三年ぶりなのかもしれない。
緊張で胃の中がぐるぐると回っている感覚がし、今すぐにでもこの場から立ち去りたいが、足を踏ん張って立ち止まる。
「はーい。どなたですか?」
ガラガラと玄関の扉が開く音が死、エプロンを来た祖母が現れる。
舜を視認した瞬間、目を丸くして驚いた表情を見せるが、すぐに切り替えてふわりとした笑みを浮かべる。
「いらっしゃい、舜君。上がって行って。あなたー? 舜君が来たわよー」
祖母が家の中に向かって叫ぶと、中からドタドタと駆け回る音が聞こえる。
「ふふっ、ちょっと待ってね」
祖母に言われて玄関先で待つこと数分。準備ができたのか、戻ってきた祖母は中に入るように促す。
靴を脱いでスリッパを履き、舜は居間に通される。
畳の部屋で、中央には大きめのテーブルがあり、周りに座布団が敷かれている。机の上にはテレビとエアコンのリモコンが置かれており、茶菓子が入っている気の器があった。
恐る恐る座布団の上に座ると、目の前に湯気の立ったお茶が入った湯飲みが置かれる。
「久しぶりだね、舜君。元気にしていたかな?」
「あ、はい。元気、です」
「それはよかった。ああ、そういえばもうすぐ高校を卒業するんだったね。どれ、小遣いをあげよう」
「あ、いえ、大丈夫です。バイトしてますから」
「遠慮しないでくれ。どれ、十万くらいで足りるかな」
「あ、いえ、あの、ほんとに、大丈夫です。受け取るとしても、そんなに多くは……」
「気にしないでくれ。君は私たちのかわいい孫なんだ。どうかこの老いぼれの詫びを受け取ってほしい」
「こらあなた。舜君が困っていますよ」
財布からお金を出そうとしている祖父に、祖母が待ったをかけたおかげで、舜は事なきを得る。
祖父は祖母に怒られており、祖父はしゅんとした表情になって正座をしてお小言を聞いている。
そんな説教のシーンを見て、舜は自分が愛されていたということを自覚する。
追い出されるわけでもなく、冷たい態度を取られるわけでもなく、祖父母の言葉すべてが舜を思って出た言葉である。
「僕は」
説教中の祖父母に、舜は言葉を漏らす。
「僕は、自分らしく生きてもいいんでしょうか?」
人は、誰かに求められてこそ生きていると言える。
両親に見捨てられ、自分には価値がないと思っていた。価値がないから、死人同然だと思っていた。でも死ぬ勇気はないから、のうのうと生きて、感情を殺して動けないでいた。
祖父母はしばらくした後、舜に笑みを向けて優しい声で答える。
「生きるのに、理由なんていらないわ。自分らしく生きるのに、自分の好きなことを、思ったことをやることに、許可なんていらないの」
「私たちはな、私たちの孫に、君に、幸せになってもらいたいと思っている。何か悩みがあるのならいつでもここに来なさい。苦しくなっても、苛立っていても、何でもいい。時には怒るかもしれないが、私たちは決して拒まないよ」
まるで自分の子供のように扱う祖父母の姿に、舜は目を丸く開き、頭を下げ、ありがとうございます、とお礼を言った。
そうだ。最初から何も変わっていない。拒んで、勘違いをしていたのは自分だったのだ。もう捨てられたくないと、自分を殻で囲って見ようとしていなかったのだ。
俊はようやく、自分が歩き始めたのを感じた。
会うのはいつぶりだろうか。立場的に見捨てると世間体が悪いために引き取ったと考えているので、迷惑をかけないよう、あまり関わらないようにしていた。高校に入ってから一人暮らしを始めたので、何気に三年ぶりなのかもしれない。
緊張で胃の中がぐるぐると回っている感覚がし、今すぐにでもこの場から立ち去りたいが、足を踏ん張って立ち止まる。
「はーい。どなたですか?」
ガラガラと玄関の扉が開く音が死、エプロンを来た祖母が現れる。
舜を視認した瞬間、目を丸くして驚いた表情を見せるが、すぐに切り替えてふわりとした笑みを浮かべる。
「いらっしゃい、舜君。上がって行って。あなたー? 舜君が来たわよー」
祖母が家の中に向かって叫ぶと、中からドタドタと駆け回る音が聞こえる。
「ふふっ、ちょっと待ってね」
祖母に言われて玄関先で待つこと数分。準備ができたのか、戻ってきた祖母は中に入るように促す。
靴を脱いでスリッパを履き、舜は居間に通される。
畳の部屋で、中央には大きめのテーブルがあり、周りに座布団が敷かれている。机の上にはテレビとエアコンのリモコンが置かれており、茶菓子が入っている気の器があった。
恐る恐る座布団の上に座ると、目の前に湯気の立ったお茶が入った湯飲みが置かれる。
「久しぶりだね、舜君。元気にしていたかな?」
「あ、はい。元気、です」
「それはよかった。ああ、そういえばもうすぐ高校を卒業するんだったね。どれ、小遣いをあげよう」
「あ、いえ、大丈夫です。バイトしてますから」
「遠慮しないでくれ。どれ、十万くらいで足りるかな」
「あ、いえ、あの、ほんとに、大丈夫です。受け取るとしても、そんなに多くは……」
「気にしないでくれ。君は私たちのかわいい孫なんだ。どうかこの老いぼれの詫びを受け取ってほしい」
「こらあなた。舜君が困っていますよ」
財布からお金を出そうとしている祖父に、祖母が待ったをかけたおかげで、舜は事なきを得る。
祖父は祖母に怒られており、祖父はしゅんとした表情になって正座をしてお小言を聞いている。
そんな説教のシーンを見て、舜は自分が愛されていたということを自覚する。
追い出されるわけでもなく、冷たい態度を取られるわけでもなく、祖父母の言葉すべてが舜を思って出た言葉である。
「僕は」
説教中の祖父母に、舜は言葉を漏らす。
「僕は、自分らしく生きてもいいんでしょうか?」
人は、誰かに求められてこそ生きていると言える。
両親に見捨てられ、自分には価値がないと思っていた。価値がないから、死人同然だと思っていた。でも死ぬ勇気はないから、のうのうと生きて、感情を殺して動けないでいた。
祖父母はしばらくした後、舜に笑みを向けて優しい声で答える。
「生きるのに、理由なんていらないわ。自分らしく生きるのに、自分の好きなことを、思ったことをやることに、許可なんていらないの」
「私たちはな、私たちの孫に、君に、幸せになってもらいたいと思っている。何か悩みがあるのならいつでもここに来なさい。苦しくなっても、苛立っていても、何でもいい。時には怒るかもしれないが、私たちは決して拒まないよ」
まるで自分の子供のように扱う祖父母の姿に、舜は目を丸く開き、頭を下げ、ありがとうございます、とお礼を言った。
そうだ。最初から何も変わっていない。拒んで、勘違いをしていたのは自分だったのだ。もう捨てられたくないと、自分を殻で囲って見ようとしていなかったのだ。
俊はようやく、自分が歩き始めたのを感じた。