クラスにとても可愛い女子がいた。
一番可愛いと思うのに、他の男子たちは別の女子のことを可愛いとか噂していた。
あの子、葛西理乃さんが可愛いと知っているのは俺だけだとちょっと嬉しかった。
だから、文化祭の準備のグループ決めで一緒になれたのは本当に嬉しかった。
タピオカドリンクの売店に決定したので、それに合わせて教室内の飾りを作るのだ。
俺は、タピオカドリンクを焼肉屋さんで一度だけ飲んだことがある。驚くほど甘ったるいミルクティーに、見た目はカエルの卵で食感はグニグニしてゴムみたいなタピオカなんて、どうしてそこそこ高いお金を払ってまでありがたがって飲むのか理解できなかった。
俺と同意見の男子は結構いたが、「ええ! 美味しいじゃん!」と大多数の女子に責められて、結局文化祭の出し物はタピオカドリンクの売店に決定した。
まあ、女子たちが率先してメニューを決めたり、仕入れ先を決めて販売数を予測して注文してくれたりしたし、文句なんて言えない。
クラスでお揃いのTシャツなんかも、気恥ずかしいくらい可愛いがクオリティの高いデザイン物を作ってくれたりした。
だから、大好きな葛西理乃さんと同じグループになれたし、仕事はきっちりこなそうと思った。
一度も話したことがなかったのに、俺の苗字をちゃんと知っていて、明るくて可愛い笑顔で「同じグループだし、よろしくね」と言ってくれたのは未だに忘れられない。
そして、葛西さんとたくさん話していく内に、次々と彼女の魅力を知った。
いつも明るい性格で明るくて優しくて眩しい。
彼女がそんなキラキラした顔を俺に向けながら「岡本君!」と世界で一番可愛い声で呼んでくれる日々が来るなんて予想もしていなかった。
まるでラノベの主人公にでもなった気分だった。
だから勢いに任せて文化祭の後夜祭に告白した。
思い切り泣かれたから軽率なことをしたと後悔したら、「嬉しいよ。ありがとう。私も、岡本君のこと好き……」と微笑んでくれたのだ。
ああ……、こんな幸せな日はもう一生来ないだろう。
毎日他愛のないメッセージを送り合ったり通話したりもした。放課後は一緒に過ごして、ファミレスで「同じメニューが好きなんて運命だね!」なんて言い合って笑ったりもした。
お互いそんなにお金もないし、休みの日は健康的にお散歩デートなんかもした。
同じメーカーのスニーカーを履いていて、「本当私たち運命だよ!」とキラキラ笑う理乃は抱き締めたくなるほど愛おしかった。
だけど、理乃の好きな音楽は全然理解できなかった。
叫ぶような歌声が耳に響く。サビはユニゾンでなくてちゃんとハーモニーを付けてほしい。
ありきたりな失恋ソング。それ以上の何物でもないと思ってしまった。
大切なものをポケットにしまう系の歌詞なんて、昭和の超人気バンドの代表曲だったり、平成の名作特撮のエンディング曲にもある。この令和にあえてある意味はあるのだろうか、なんて考えてしまった。
理乃も俺が好きな音楽を理解してくれなかった。
理乃は、そんな俺たちの間の齟齬が許せないようで冷めた反応をしてきた。
それがショックだったし、俺も好きな音楽を受け入れられなくてショックを受けている理乃を見るのもつらかっま。
段々と距離を置くようになった。
まだずっと好きなのに。
多少お互い合わないところがあっても、合うところの方がたくさんあるし、こんなにも好きなのに一緒にいられないなんて。
ベッドで一人理乃が好きと言っていた曲をまた再生してみた。
「……ああ、思ったよりいい曲だな」
失恋に悲しむ俺に寄り添い、感情的な歌い方で俺の押し殺した感情を生き返らせて一人じゃないと思わせてくれる。
ありきたりな失恋を人々は皆経験して悲しみ苦しむ。
そんな万人に優しく寄り添って、つらいのに泣けない人を泣かせてくれる曲だったのだ。
「理乃……」
次に誰かを好きになる時は、もっと上手に恋ができるだろうか。
そう思いながらも理乃を想って泣いた。