ある日、いつも帰りに立ち寄るショッピングセンターの本屋さんで、たまたま画集フェアをしていて、そこで見かけたある一冊の本に釘付けになった。
その本には、色鉛筆だけを使って日本有数の自然スポットが鮮明に描かれていた。色合いは大袈裟すぎるほど鮮やかで、見ている人の心を朗らかなものに変換してくれるような。そんな絵だった。
正面に置いてある一冊だけビニールがされていなかったから、手にとってしばらく喰い入るようにページを捲った。
そこから私は風景画ばかり描くようになった。
「海幻って美術部だったんだ」
「ううん。部活には入ってないよ」
「なんで?もったいない」
思わなかったわけではない。勇気がなかっただけ。
絵を描き始めるのは高校に入ってからだったし、中学の頃から美術部に入っている人からすれば、私は所詮お遊び程度だ。
それに、部活入るとなると面倒な人間関係は避けられない。
こうして私は入部しない理由を探し、一人でいることを選んだのだ。
「な、成瀬くんって、何組にいるの?」
急に自分のことを話すのが恥ずかしくなってきた私は、必死に話題を変える言葉を探す。
一方的に話しておきながら、苦手な話題になると放棄するのはずるいとは思うけど。
「何組って?」
あ、やってしまったかも。
「あの、もしかして、先輩……でしたか。すみません!私、てっきり同級生かと」
「いや、そうじゃなくて」
違った。
成瀬くんは人差し指で頬を掻きながら、
「俺、ほかの人からは見えてないんだ」
と言った。
「……はい?」
どういう意味ですか?
不登校とか、保健室登校とか、何ならみんなに無視されているということだろうか。
もしかすると、成瀬くんの方がよっぽどいろんな事情を抱えて過ごして来たのかもしれない。
「俺、幽霊なんだ」
その本には、色鉛筆だけを使って日本有数の自然スポットが鮮明に描かれていた。色合いは大袈裟すぎるほど鮮やかで、見ている人の心を朗らかなものに変換してくれるような。そんな絵だった。
正面に置いてある一冊だけビニールがされていなかったから、手にとってしばらく喰い入るようにページを捲った。
そこから私は風景画ばかり描くようになった。
「海幻って美術部だったんだ」
「ううん。部活には入ってないよ」
「なんで?もったいない」
思わなかったわけではない。勇気がなかっただけ。
絵を描き始めるのは高校に入ってからだったし、中学の頃から美術部に入っている人からすれば、私は所詮お遊び程度だ。
それに、部活入るとなると面倒な人間関係は避けられない。
こうして私は入部しない理由を探し、一人でいることを選んだのだ。
「な、成瀬くんって、何組にいるの?」
急に自分のことを話すのが恥ずかしくなってきた私は、必死に話題を変える言葉を探す。
一方的に話しておきながら、苦手な話題になると放棄するのはずるいとは思うけど。
「何組って?」
あ、やってしまったかも。
「あの、もしかして、先輩……でしたか。すみません!私、てっきり同級生かと」
「いや、そうじゃなくて」
違った。
成瀬くんは人差し指で頬を掻きながら、
「俺、ほかの人からは見えてないんだ」
と言った。
「……はい?」
どういう意味ですか?
不登校とか、保健室登校とか、何ならみんなに無視されているということだろうか。
もしかすると、成瀬くんの方がよっぽどいろんな事情を抱えて過ごして来たのかもしれない。
「俺、幽霊なんだ」