「本当にごめんね……」

「だから悪いことしてないのに謝んなって。海幻のおかげでこいつは助かったんだろ」


成瀬くんは私達に付いてきていた子猫を再び指差して言った。

子猫は呼ばれたわけではないのに勘違いしたのか、私達の方に駆け寄り、私の膝の上にぴょんと乗ってしまった。


「いざという時に咄嗟に身を投げ出して助けるなんてすげーよ。普通はできねーぞ」


心の中で「そんなことはないのだけれど」と否定をする。

ひょっとして、彼はきっと落ち込んでいる私を励まそうとして言ってくれているのかもしれない。そう思って、一応苦笑いも浮かべておく。


「成瀬くんは本当に大丈夫?」

「大丈夫だって。俺、幼稚園の時によく走り回って転けてたから、意外と受け身は得意なんだ」

「ふふっ。なにそれ」


彼は的外れな根拠を自信満々に言っていたから、また少し笑ってしまった。

どうやら成瀬くんは私と違って表裏が無く、思ったことをすぐに口に出してしまうタイプの人みたいだ。ちょっと羨ましいかも。


「海幻の笑った顔初めて見たかも」

「なっ……」


成瀬くんは途端に真剣な眼差しでじいっと私の顔を見つめる。突拍子も無いことをいきなり言われて、顔が熱くなる。

そ、それに、私達は初対面じゃなかったっけ。しかも、なんの躊躇もせずに名前で呼んでるし。

成瀬くんは距離感をつめるのが上手いのか、それとも強引なのか。


「あれ?怒ってる?」

「お……怒ってない……です」


オロオロしている私をよそに、成瀬くんは矢継ぎ早に質問を飛ばす。


「そういや海幻ってさ、この公園で何してたの?」

「えっと、写真を撮ってた、かな」

「一人で?」

「……はい」

「海幻ってさ、学校でもそうだけど、なんでそんなに一人でいるの?好きなの?」

「そ、それはーー」


成瀬くんは私が学校で一人で過ごしていることをちゃんと知っていた。

クラスでは出来るだけ目立たないようにしていたつもりなのに、一人でいることで逆に目立ってしまっていたのかもしれない。そう思うと、急に冷や汗が噴き出てきた。

でも、もう既に私のことがバレてしまっているんだったらしょうがない。白状するしかない。


「好きじゃないけど、一人の方が楽だし」

「ふーん」


わかっていたけど、この間がちょっときつい。やっぱり言わなきゃ良かった。


「なあ、もうちょっと詳しく聞かせてくれないか?」

「へ?」

「海幻の話が聞きたい」

「え、でも、つまんないよ」

「そう決めつけんなって。俺は海幻の話に興味があるんだ。つまんなくてもいいから聞かせてくれ」

「……わかった」