いつも成瀬くんと一緒にいたところに、香代ちゃんといるのはちょっと不思議な気分がする。

朝、ここで成瀬くんをスケッチしていたことは、やっぱり幻だったんじゃないかな。


「海幻、任せた!」

「うん。開けるね」

埃っぽいドアノブを捻り、動きの悪い扉を何度かうんっと力を入れて押す。

ふわりと風が扉から校内へと通り抜け、傾きかけた西陽の光が目に入る。

ぎゅっと瞑った目をゆっくりと開くと、すぐ目の前のフェンスの下に、小さな献花台が備えられていて、そこに一本の百合の花と、綺麗に折り畳まれた紙が添えられていた。


私は香代ちゃんに見つからないように周りを見渡してから、小さなため息をつく。

きっと彼はもうここにはいない。ようやくこの学校を卒業できたんだ。

献花台で両手を合わせていると、フェンス越しに下を眺める香代ちゃんが、しんみりと言った。


「こんなに高いところから落ちちゃったんだ……一体どんな子だったんだろう」

「……明るくて、困っている人を放っておけない優しい人」


そんな成瀬くんに影響を受けた人は、きっと私だけではなかったはず。


「え、海幻の知ってる人だったの?」

「ううん。そう思っただけ」


フェンスの向こうには、夕映えに包まれた私達の街が広がっている。

この美しい景色を背景に、私はあなたを描ききりたい。

だから私は、今もこれからも、精一杯生き抜いていく。