クラスの片付けも無事終わらせ、軽音楽部の部室のドアをノックする。


「失礼します」

「あ!海幻、もう始まってるよ!」


部室には、香代ちゃんと秋元くん、それに放送部の子達が既に集まっていた。

机の上には出店で売れ残ったであろうフライドポテトやチョコバナナ、りんご飴、そして景品のお菓子などが所狭しと並んでいる。

そして、ちゃっかり生徒に混じってお菓子を食べている安達先生の姿もあった。


「え、ちょちょちょ……海幻、一旦退場しよう」


打ち上げモードのテンションにたじろいで入り口で立ち尽くしていると、香代ちゃんが私の顔を覆うように部屋から押し出す。


「海幻、あんたどうしたの?目元が真っ赤だし、腫れてるよ」

「え、うそ……」

「どうしたのよ」


香代ちゃんは心配そうに私の手を握ってくれる。


「ううん。なんでもない。大丈夫だよ」

もしかして思って、あの後すぐに第二校舎の階段の方に戻ってみたけれど、私の淡い期待はすぐに落胆へと変わってしまった。

それに、階段の片隅に置いておいたスケッチブックは、なぜか成瀬くんを描いていたページだけがなくなっていた。今まで成瀬くんがいた事自体が幻だったんじゃないか。

そう思ったら、涙が止まらなくなった。


「何かあったら言ってよね。私たち、友達じゃん」


私をぎゅっと抱きしめながら言ってくれたから、また堰き止めていた涙が流れてきそうになった。


「もう大丈夫。ありがとう」