「最後まで聞いてくれてありがとうございましたー!」


アンコールまでしっかり応えた香代ちゃんは、深々と頭を下げる。

舞台の幕が降りきる直前、香代ちゃんは私の方に小さく手を振ってくれたから、私も振り返した。

館内の照明が明るくなったところで録画停止ボタンを押し、ようやく自分の緊張の糸も緩める。

誰にも聞こえないように大きく息を吐く。

こんなにも清々しい気持ちになるのは初めてかもしれない。


「終わったよ。成瀬く……」


振り向いたその先で、成瀬くんの気配を感じ取ることはできなかった。

ある程度の覚悟はしていたんだ。だからそんなに大きなショックを受けることはなかった。

それに、もしかすると私が見えなくなっただけで、目の前にいるのかもしれない。

だから私は、はっきりと周りに聞こえるくらい大きな声で言った。


「成瀬くん、ありがとう」