「やっぱり事故だったんじゃ……」

「でも、踏ん張ろうとできたはずだったのに、それをしなかった。落ちてしまえばどんなに楽かって思ったら、力が入らなくなったんだ」


それは、心のどこかで死にたいって思ったからだろうか。

だとすれば、私もその気持ちを知っている。


「じゃあ、自殺って言ってたのは……」

「ほとんど自分から落ちたもんだ」


落ちてる時に強烈に虚しくなった。その言葉が私の中で何度も反芻する。


「まさかその後幽霊になると思わなくてさ、ずっとこれでよかったのかなって考えるようになったよ」


虚しさを抱えたまま、ひとりぼっちで過ごすのは何よりも辛い。それを成瀬くんは、何年も味わってきたんだ。 


「あ、でもな、最近気付いたことがあるんだ」

「気付いたこと?」

「そう、海幻に生きていてもらうために、この世に留まってたんじゃないかって」

「え……」

「初めて海幻を見たとき、やっぱり何かしてあげたくなった。そう思ったら、今まで人の為に生きてきた自分を全部受け入れられそうな気がしたんだ。だから、ありがと」

「私……勝手に死にたくなってただけだし……」


お礼を言われても困る。

私からは何もしてあげられていないのに。


「でもさ、その後海幻は頑張って前向きになったじゃん。それを見たら、俺もすげー元気貰ったんだ。それに海幻といると毎日楽しいし……っておい、泣くなよ」

「私も、成瀬くんのおかげで、今、すごく楽しい……」

「そっか!じゃあ両想いってことだな!」

「なにそれ……」


ズビズビと鼻を啜る私を励まそうとしてくれているのか、成瀬くんはいつものように明るい口調に変わる。


「俺の話を聞いてくれてありがとな」

「ううん。私こそ、話してくれてありがとう」


勇気を出して訊いて良かった。

もしかすると、特別なことをしてあげることじゃなくて、いつものように残りの時間を一緒に過ごすことが、お互いにできることなのかもしれない。