確か高校二年生だったと思う。

別に自慢するわけじゃないけど、俺は昔から成績も悪くなかったし、スポーツもできる方だった。高校二年生になって生徒会にも誘われて、先輩と一緒にこの学校が少しでも良くなるように努めていた。

父さんは警察官、母さんは保育園の先生をしていて、両親とも人のために尽くすことを生業にしていた。だからその影響を受けて、人一倍正義感が強くなったのかもしれない。

いじめられていたのは同じクラスの美術部の女の子だった。

その子は教室でいつも一人で絵を描いていた。ただ、その子はあまりにも尖った性格をしていて、周囲の人間に溶け込むことができないどころか、クラスメイトとも度々衝突を繰り返していた。

当時の俺はその子のことが気になってしょうがなかった。最初はいじめられていた人間を放っておけないという正義感からそう思ったのかもしれない。けれど。

いつも自分の世界を持ち、はっきりと嫌なものを嫌だと言える。

他者から感謝されることばかり考えるような俺からすると、その子が格好良く見えてしょうがなかった。

でも、彼女を取り巻く環境は状況は悪化していった。やがて彼女の机には誰かが油性マジックで書いた心無い言葉が増えていき、少しづつ彼女の持ち物が無くなり、ついにその子は学校に来なくなった。

一度だけ放課後近くの本屋でその子を見かけて声をかけたことがあった。

その子は「もう学校には行かない」とはっきりとした口調で言った。その顔は誰かを憎んでいるとかではなく、晴れ晴れとしていた。


その頃からかもしれない。自分のことが無性に恥ずかしくなったのは。


ある日、お昼休みに第二校舎の屋上に行ったら、誰かが屋上からその子が毎日使っていたスケッチブックを投げ捨てていた。幸い風に押し戻されて、フェンスの上に被さるように引っ掛かった。

俺は誰もいなくなるタイミングを見計らい、フェンスに登った。

スケッチブックを投げた奴らはすぐに戻ってきた。

まずいと思ってしまった。見られたことが、恥かしかった。

直後、再び強風が吹き、視界がぐらりと傾いた。