次の日の放課後。私は香代ちゃんに用事があると伝えてから、すぐに成瀬くんのいる階段に向かった。
昨日家に帰ってから早速スマホで「幽霊 成仏 方法」と検索して、いくつかできそうなものを考え、用意できるものは全部揃えた。これでよし。
「……海幻、何やってんの?」
「何って、お線香あげるんだよ。あの世への道標になるんだって」
「いやいやいや!階段臭くなるし、そこの警報器も鳴るって!てか、学校にライターなんて持ってくんなよ。勘違いされるぞ」
「でも、これで成瀬くんが成仏できるかもしれないじゃん。あと、これも」
「ナス⁉︎」
「精霊馬っていうんだよ。これに乗って向こうの世界に行くんだって」
運よく押入れの中にはおばあちゃんのお墓前りをした時のお線香の残りがあったし、冷蔵庫の野菜室にはそこそこ大きなナスがあった。
ナスをカバンに入れているときは運悪く妹の柚に見つかってお母さんを呼ばれてしまったけれど、美術の授業でデッサンに使うと言ったら上手く誤魔化せた。
「それ、お盆の時に先祖が帰るやつ……俺まだあっちの世界行ったことすらないんだけど」
「……え?」
成瀬くんはぶはっと大きく吹き出す。
「ずっと思ってたけどさ、海幻って意外と天然なとこあるよな」
天然って、失礼な。こっちは必死なんですけど。
「それに、明るくなった」
「……やってみないとわかんないじゃん」
「いいね。そういうとこ好き」
茶化さないでほしいし、無駄に褒めないでほしい。これ以上私が前向きになったら、本当に成瀬くんが見えなくなっちゃうよ。
結果はというと、言うまでもなく成瀬くんの身に変化が起こることはなかった。
警報器が反応しないように階段の窓を開け、お線香を一本だけあげてみるけど、何も変化は起きない。
階段に匂いが残らないように下敷きで仰いでから、成瀬くんの目の前に爪楊枝を四本刺したナスを置いてみるけれど、やっぱり何も起こらない。
二人でナスをじいっと見つめ、そもそもこれにどうやって乗りこむのかについてを本気で考えてみたけれど、次第に方向性が間違っていることにようやく気付いて顔が熱くなった。
「次、何する?」
成瀬くんはもう遊びに近いテンションだ。
「えーと、お経読むとか。ほら、昨日スマホにダウンロードしておいたよ」
できるかどうかわからなかったけど、一応調べておいて正解だったかも。
ちょっと自信がないけれど、読み仮名付きだし、気持ちを込めればそれっぽくなるかもしれない。
「お経は霊を成仏させるためのものじゃないぞ」
「……」
終わった。
あんなにも意気込んで決意したのに。あっという間に私のアイデアは打ち止めになってしまった。私は何をやっているんだろう。
「海幻、ありがとな。ちょっと休憩しようぜ」
どうすればいいんだろう。
どうして私たちは出会ってしまったんだろう。
消えてしまうとかわっていながら一緒にいるのは、やっぱりきつい。
気を抜くと悲しい感情が私に襲いかかってくる。
開いた窓からは、心地良い風が入ってくる。こうして空を眺めるのは久しぶりかもしれない。
項垂れている私を励ますように、成瀬くんは私の肩を叩く。
私達は踊り場にある窓からぼーっと空を眺めながら、時間だけが流れるのを感じていた。
昨日家に帰ってから早速スマホで「幽霊 成仏 方法」と検索して、いくつかできそうなものを考え、用意できるものは全部揃えた。これでよし。
「……海幻、何やってんの?」
「何って、お線香あげるんだよ。あの世への道標になるんだって」
「いやいやいや!階段臭くなるし、そこの警報器も鳴るって!てか、学校にライターなんて持ってくんなよ。勘違いされるぞ」
「でも、これで成瀬くんが成仏できるかもしれないじゃん。あと、これも」
「ナス⁉︎」
「精霊馬っていうんだよ。これに乗って向こうの世界に行くんだって」
運よく押入れの中にはおばあちゃんのお墓前りをした時のお線香の残りがあったし、冷蔵庫の野菜室にはそこそこ大きなナスがあった。
ナスをカバンに入れているときは運悪く妹の柚に見つかってお母さんを呼ばれてしまったけれど、美術の授業でデッサンに使うと言ったら上手く誤魔化せた。
「それ、お盆の時に先祖が帰るやつ……俺まだあっちの世界行ったことすらないんだけど」
「……え?」
成瀬くんはぶはっと大きく吹き出す。
「ずっと思ってたけどさ、海幻って意外と天然なとこあるよな」
天然って、失礼な。こっちは必死なんですけど。
「それに、明るくなった」
「……やってみないとわかんないじゃん」
「いいね。そういうとこ好き」
茶化さないでほしいし、無駄に褒めないでほしい。これ以上私が前向きになったら、本当に成瀬くんが見えなくなっちゃうよ。
結果はというと、言うまでもなく成瀬くんの身に変化が起こることはなかった。
警報器が反応しないように階段の窓を開け、お線香を一本だけあげてみるけど、何も変化は起きない。
階段に匂いが残らないように下敷きで仰いでから、成瀬くんの目の前に爪楊枝を四本刺したナスを置いてみるけれど、やっぱり何も起こらない。
二人でナスをじいっと見つめ、そもそもこれにどうやって乗りこむのかについてを本気で考えてみたけれど、次第に方向性が間違っていることにようやく気付いて顔が熱くなった。
「次、何する?」
成瀬くんはもう遊びに近いテンションだ。
「えーと、お経読むとか。ほら、昨日スマホにダウンロードしておいたよ」
できるかどうかわからなかったけど、一応調べておいて正解だったかも。
ちょっと自信がないけれど、読み仮名付きだし、気持ちを込めればそれっぽくなるかもしれない。
「お経は霊を成仏させるためのものじゃないぞ」
「……」
終わった。
あんなにも意気込んで決意したのに。あっという間に私のアイデアは打ち止めになってしまった。私は何をやっているんだろう。
「海幻、ありがとな。ちょっと休憩しようぜ」
どうすればいいんだろう。
どうして私たちは出会ってしまったんだろう。
消えてしまうとかわっていながら一緒にいるのは、やっぱりきつい。
気を抜くと悲しい感情が私に襲いかかってくる。
開いた窓からは、心地良い風が入ってくる。こうして空を眺めるのは久しぶりかもしれない。
項垂れている私を励ますように、成瀬くんは私の肩を叩く。
私達は踊り場にある窓からぼーっと空を眺めながら、時間だけが流れるのを感じていた。